連載「そのひとことを言う前に」
職場で感じるストレスの原因は、うまくコミュニケーションがとれないことによるものが多いようです。本連載では、伝え方や接し方、聴き方に至るまで職場でよくあるエピソードをもとに、仕事や物事がより円滑に進むようなコミュニケーションのヒントをご紹介します。言葉を受ける側の立場や気持ちを理解し、自分が発する言葉について見直してみてはいかがでしょう。
ビジネスにおいて「信頼」は重要です。人に仕事を頼むとき、任されるとき、評価をするときにも影響するでしょう。むしろ信頼なしに円滑な仕事は成立しないと言ってもいいかもしれません。
となれば、人から信頼されている方がいろいろオトク……なのですが、信頼されるのは難しいし、一度失ってしまえば取り戻すのはもっと難しい。相当やっかいなものです。今回はこの「信頼」のメカニズムにお話しします。
“どうすれば信頼されるのか”を考える前にまず、どうすれば信頼を失うのかを考えてみましょう。最もありがちなのは、約束を破ってしまったときでしょう。約束というのは、仕事で考えれば納期や品質、遅刻や報連相の遅れなど、職場内のルール全般を指します。
「約束を守るなんて、社会人として当たり前」と思うでしょうが、とはいえ、不慮のアクシデントなどで約束を守れなくなることはありがちです。そういうときのための報連相なのですが、とっさに次のような言い訳をしてしまうと、信頼はがた落ちです。
ケースA:その場しのぎでごまかす
Aさん: そういえば、あの提案書どうなった?
Bさん: あ! すみません。実は他の急ぎの対応が入りまして、そちらが忙しくて……
Aさん: (……で、結局できてないんだよな?)
ケースB:ミスを他人のせいにする
Cさん: 今回の案件、失注した原因って分かる?
Dさん: いや、あの。先輩方に相談して、やっぱり今回はこのA案で行くしかないと言われたんですよね。私も正直、A案はちょっと……と思ったのですが。でも、チームのみんなも、A案の意見が強かったこともありまして……
Cさん: (……でも決めたのはDさん自身だよな)
信頼は“貯金”のようなもの
こうした人の信頼について、社会心理学者のホランダーは「信頼蓄積理論」という考え方を提唱しています。信頼を“貯金”にたとえ、「約束を守る」という行動を積み重ねることで信頼は貯金され、貯まったら、それを使って周囲に影響力を発揮できる「土壌」ができると論じています。
上記のように、約束を破ったり、言い訳をしたりすると貯金が一気に減ってしまいます。こうした言い訳は周囲から理由を求められ、とっさに反応するときに出やすいものです。その場しのぎの対応にならないように、常日ごろから報連相を習慣づけるとよいでしょう。「報連相上手は信頼されやすい」とよく言われているのも、こうした理由からです。
ところで、前回の連載では「でも」「どうせ」といった否定的な反応を続けていると、人から話を聞いてもらえなくなる、という話をしました。こうした言葉も、信頼貯金を減らすものです。
人から話を聞いてもらうには、“約束を守る”ことを積み重ねて、信頼の土壌を整えることも大事です。土壌が整わないうちは意見を言っても、時期尚早だと軽く扱われてしまうでしょう。
さて、この信頼貯金にはもう1つ注意すべき点があります。
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