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ビル・ゲイツが起こした4つの事件とこの上なく誠実で熱い物語

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1.仕事が楽しいということ

2.あなたが何かを任されたら、あなたが一番偉いということ

3.政治的な駆け引きがないということ

4.最後まで自分が責任を持つということ

5.お互いを尊重するということ


 これは、とあるマイクロソフトの合宿で、ワンワン泣くビル・ゲイツ氏に対し幹部たちが提出した5つの「マイクロソフトの愛すべきカルチャー」である。


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 米国時間8月4日、Seattle IT Japanese Professionals(SIJP)主催の勉強会「若者たちの描く未来に期待する」が開催された。SIJPは、定期的に勉強会やイベントを開催しているシアトルのITコミュニティ。今回のゲストは、元マイクロソフト株式会社(現・日本マイクロソフト、以下「MSKK」と記載)の社長であり、現在慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の古川享氏。古川氏は、マイクロソフト時代に経験したビル・ゲイツ氏とのエピソードを語り、ビル・ゲイツ氏がどのようなリーダーシップを取っていたかを話した。

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画像慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 古川享氏

古川氏秘蔵:4つの事件から垣間見るビル・ゲイツ氏の人物像

東京駅で起きた「新幹線の切符事件」

 ゲイツ氏が日本を訪れたとき、「週末に彼女を連れて京都へ行きたい」というので、古川氏が新幹線の切符を手配したことがあったという。古川氏はゲイツ氏に東京駅で切符を手渡し、「精算はこちらでしておくから、この切符を持ってグリーン車に乗ってね!」と言った。その瞬間ゲイツ氏はブツっと切れ、ものすごい勢いで怒ったという。——「おまえ、今何を言った! そんなことが許されると思うのか!」(ゲイツ氏)。

 この話を聞いて、逆鱗に触れるポイントがどこにあるのか筆者にはさっぱり分からなかったが、「精算はこちらでしておくから」という発言の部分に問題があったようだ。

古川氏 チョイ待ち! 「こちらで精算する」とは言ったけど、日本のマイクロソフトはアメリカ本社の子会社。つまり、あなたの子会社なんだから、3万円くらいこっちで精算しとくからいいじゃない!

ゲイツ氏 そういうことをあいまいにしたら、社員の中で電車に乗って帰りに遊んでくる奴が出てくるかもしれないじゃないか! おまえは個人のお金と会社のお金の区別がついていないのか!

 駅構内にもかかわらず、ゲイツ氏は古川氏に対しものすごい勢いで怒ったそうだ。しかし、ゲイツ氏のポケットに日本円はない。「それじゃあ、ぼくが代わりに立て替えておくよ」古川氏がそう言って、やっとその場が収まったという。


1986年、MSKKを立ち上げたときに起こった「コピーマシン事件」

 ゲイツ氏は、MSKKの予算書を見て激怒した。

ゲイツ氏 なぜMSKKは1人あたりのコピー枚数がこんなに多いんだ! これは異常だぞ!! そして1枚当たりのコピー料金が高すぎる! この料金は、アメリカのコピーマシンの1枚あたりのコストの8〜10倍に値する。こんなに高いのならアメリカで紙を買って日本へ送ってやる!

古川氏 ちょっとまって! 税金対策上リースシステムを使っていて、5年間の契約があるからすぐにキャンセルすることはできない。

ゲイツ氏 残り3年あったとしても、今の契約をキャンセルして新規で購入し、メンテナンス費用だけを別途払った方が絶対安いはずだ。

古川氏 キャンセルって言ってもキャンセル料もまた取られるし……。

ゲイツ氏 じゃあ、次に日本にくるときにその社長に会ってぼくが交渉するよ!

 ゲイツ氏は頭の中で全てコスト計算し、コスト削減のためのキャンセル交渉を全て自分で行おうと考えていたそうだ。


古川氏の提案書がパーになった「フォント事件」

 古川氏はマイクロソフトに務めた初期のころからアドビシステムズと仲が良く、アドビシステムズが開発した「PostScript(ポストスクリプト)フォント」などに非常に興味を持っていたという。フォントについていろいろ調べているうちに、「マイクロソフトもちゃんとフォント戦略を持っていないといけない」と思い、調査を続けていた。

 そのころ、ちょうどアップルもフォントに力を入れており、古川氏は「アドビとアップルが仲良くなる前にアドビを買ってしまった方がいいのではないか」と思ったそうだ。こうしてワクワクしながらゲイツ氏に提案書を持っていった。

 ゲイツ氏はその提案書を読み、最後にひとことこう言ったという。——「Sam(=古川氏)、コンピューターになぜ2つ以上のフォントが必要なんだ?」(ゲイツ氏)。古川氏の提案はあえなく散った。

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今では考えられないような「Xbox事件」

 CSK創業者でありセガ代表取締役会長兼社長を務めた大川功氏は、生前ゲイツ氏にこんな提案をしたという。

 「Xboxにインターネットアクセス環境を作り、子どもが最初に触れるインターネットが『Xbox』だというようなストーリーを作りましょう。最初の100万台は私がモデム代を払いますから」(大川氏)。

 現在では、オンラインサービス「Xbox Live」などもあり、家庭用ゲーム機がインターネットにつながることは当たり前に思えるだろう。しかし、当時は「もしも、サーバー側にWindowsのようなものを動かしておいてXbox上で勝手にクライアントが動いてしまったら、PCはいらなくなるのではないかという話になってしまうかもしれない」と、PCのビジネスがおびやかされることを心配したという。

 大川氏はゲイツ氏に3回ほど提案したが、ビル氏は3回とも机をひっくり返す勢いで「Xboxにインターネットアクセスはいらねえ!」と言ったそうだ。


泣きじゃくるビル・ゲイツ氏に提出した5つの「マイクロソフトの愛すべきカルチャー」

 マイクロソフトの幹部や役員など80人が集まるとある社員合宿のことだった。夕飯時に、誰かが冗談をかました。——「俺たちさ! 悪いことをやってうらまれちゃっているのは、やっぱり勝ち組だからしょうがないよね! 俺たち、ワルだもんね」。

 その瞬間、ビルゲイツは烈火のごとく怒るかと思いきや、見たことない状態で泣きじゃくったという。「それがうちの会社のカルチャーだったのか。本当に情けない」と、皆の前でギャーギャーワンワン泣いたそうだ。肩を叩いても何をしてもゲイツ氏は全く動かず、その合宿に参加していた古川氏ら80人はチームに分かれて約3時間(午後11時ごろまで)、「マイクロソフトのカルチャーはどういうものか」「俺たちのマイクロソフトの愛すべきカルチャーとは何だったのか」ということを討議し、それをゲイツ氏に提出した。これを見てようやくゲイツ氏は顔を上げたという。

 その5つのカルチャーが、本記事の冒頭に記載したもの。

1.仕事が楽しいということ

2.あなたが何かを任されたら、あなたが一番偉いということ

3.政治的な駆け引きがないということ

4.最後まで自分が責任を持つということ

5.お互いを尊重するということ


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 1つめは、「仕事が楽しいということ」。マイクロソフトには、一緒に働いていくことの楽しみを共有したり、仕事が楽しいと思えるような環境を作っていこうということを真面目に考える文化があった。

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 2つめは、「あなたが何かを任されたら、あなたが一番偉いということ」。昔からマイクロソフトには「オーナーシップ」というキーワードがある。多くの場合「オーナーシップ」というと会社の株主や親会社のことを指すが、マイクロソフトが考えるオーナーシップは「あなたが何かを任されたら、あなたが一番偉い人」という考え方を指す。例えば、ゲイツ氏の時間もお金も、与えられたリソースの中であれば全て自分が自由に使っていいリソースになる。

 さらにすごいことは、このことをマイクロソフトの全社員が理解していることだ。年齢や経験に関係なく「権威をこの人にゆだねる」となった瞬間に、皆がそれを支援するように動き出す。「あなたが最高の意思決定者なので、全部それを中心に回るんだ」ということを、お互いが完全に理解し合っているのである。これがすごく重要なことだと感じた。

 それを象徴するのが、「何か会社にとって重要なことがあって、今日中に知らせておかなければ大変だというようなことがあったら上司の許可を取らずに直接メールしていいよ」と、入社時に渡されていたというゲイツ氏のメールアドレス。何かあった際には社員全員がオーナーシップになれる権利を与えられていたのだ。

 ただし、ゲイツ氏はこう付け加えた——「その代わりに、その間に4人ボスがいたら、その1人も無視するな。ちゃんとCCを入れろ。そして、重要なことはきちんとボスと相談して決めろよ」(ゲイツ氏)。

 古川氏によると、ゲイツ氏はあくまでも自分自身の1つの意見として言うことを大事にしていたという。「最終的にはあなたが決めてもいいけど、俺はこっちに一票入れるよ」というスタンスを取っていた。

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 3つめは、「政治的な駆け引きがないということ」。お互いが協調し合いながら、お互い大事なことをちゃんと褒めたたえる文化があった。

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 4つめは、「最後まで自分が責任を持つということ」。古川氏は、マイクロプロセッサ「6502-BASIC」の中に入っていた紙を今でも「人生の記念品」として持っているという。

 そこには、「私たちが作りました。もしトラブルがあったらここに電話してください」と3人の開発者の名前がその部分だけ手書きで書かれており、そこにはゲイツ氏個人の電話番号が記載されていた。これには古川氏も驚いたという。ゲイツ氏はモノを作って提供するだけでなく、「もしそれが使えなかったら最後まで面倒みます」という姿勢を持っていたのだ。

 古川氏はその紙を手にして以来、本当は開発や営業を志望しているカスタマーサポートの人々がトラブルを抱えて追いつめられたとき、その紙を共有しているそうだ。もちろん、「カスタマーサポートが一番大事だ」と考える古川氏本人もしばしば、トラブルの電話に対応していた。

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 5つめは、「お互いを尊重するということ」。これはどの社会でも言われていることかもしれないが、マイクロソフトの文化にも「お互いを尊重するということをきちんと考えなくてはいけない」という文化があった。

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 当時のマイクロソフトの文化、そしてビル・ゲイツ氏。古川氏の言葉から、この上なく誠実で熱くなると止まることを知らないゲイツ氏の人物像がひしひしと伝わる。

 私たちの知らないところで、今につながるいろいろな物語がある。その物語を1つ1つ、記録していけたらいい。

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