資源エネルギー庁が7月12日に、専門家を集めて「ガス料金制度小委員会」の第1回会合を開いた。電力不足の心配や電気料金の値上げが続き、国のエネルギー政策としてガスの重要度が高まってきたからだ。
電力の代替エネルギーとしてガスコージェネレーションやガス冷暖房の普及を促進するうえで、ガス料金の安定が欠かせない。ガス料金は電気料金と同様に認可制だが、現行の制度を見直して、ガス料金の値上げを抑制することが委員会の狙いである。
LNGの輸入価格が高騰しても値上げなし
これまでのガス料金の推移を見ると、過去30年間で2分の1程度の水準に下がっている。最近の10年間はLNG(液化天然ガス)の輸入価格が2倍以上に高騰しているにもかかわらず、ガス料金はほぼ同じ水準を維持してきた(図1)。
その背景には、全国で200社を超えるガス会社(正式には「一般ガス事業者」)が市場で競争状態にあり、電力市場よりも格段に自由化が進んでいることがある(図2)。ガス市場では東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西部ガスの4社が大手で、それぞれ関東・関西・中部・九州の各地域で大きなシェアを占めているものの、電力市場のように独占状態にはない。
例えば関東では京葉ガスが東京ガスに次いで大きく、千葉県内で80万を超える利用者を獲得している。地域によっては自治体がガス供給事業を実施している例も少なくない。仙台市のガス供給事業では利用者数が35万にのぼっている。
すでに「発送電分離」と同じ状態を実現
ガスの小売自由化は電力よりも5年早く、1995年(平成7年)から段階的に進められてきた(図3)。電力と同じように大口の利用者を対象に販売価格を自由に設定できるようになり、徐々に規模の小さい利用者に対しても自由な料金設定が可能になった。2007年には家庭を中心とする小口の利用者を除いて小売の自由化が完了している。
さらに小売のみならず、ガスの調達・流通の面でも自由競争を促進する市場構造ができあがっている。海外から大量のガスを輸入できる能力があるのは大手ガス会社に限られるが、輸入したガスの一部を地方のガス会社に供給する仕組みになっている(図4)。
そのほうが大手ガス会社にとってもスケールメリットを発揮して安い価格で調達できるからだ。生産・流通・小売の各段階が市場原理で動くようになっていて、電力における「発送電分離」に近い状態が実現できている。
新規参入事業者のシェアは17%に拡大
ガス市場の開放度を見るうえで、ひとつの指標になるのは新規参入事業者によるシェアの伸びである。1995年に小売の自由化が始まって以降、ガス会社以外の事業者でも大口の利用者にガスを供給できるようになり、その供給量は年々増えている。2011年度には自由化されている市場の供給量のうち17%を新規参入事業者が占めるまでに拡大した(図5)。
これに対して電力市場を見ると、新電力の販売シェアは3.5%にとどまっている。電力会社に対する影響度は小さく、電気料金の値上げを抑制する効果は期待しにくい。高い料金で多少の顧客を失ったとしても、値上げによる売上増加のメリットのほうがはるかに大きい状況にある。
一方の大手ガス4社は最近でも何度か料金の改定を実施して、少しずつ値下げを続けている(図6)。4社が料金の改定にあたって資源エネルギー庁に報告した原価の内訳を見ると、電力の燃料費に相当する「原材料費」は増加の一途をたどり、2011年度には1995年度の5倍以上に増えた。
急激な原材料費の増加を吸収するために、労務費や修繕費を半分以下の水準まで下げ、利益の元になる事業報酬も大幅に縮小している。独占市場の中で原価の抑制を怠ってきた電力会社とは大きな違いだ。
燃料費の増加を理由に電気料金を値上げする電力会社、そして電気料金の値上げを業績悪化の理由に挙げる製造業などは、すでに競争力を失っていて、自由な市場では生き残れない可能性がある。健全な産業の発展には自由化と市場開放が不可欠なことを、ガス料金の変遷が示している。
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