ツインバード工業は7月30日、同社が10年以上開発を進めてきたスターリングクーラー事業が初めて単年度黒字化する見通しを明らかにした。同社の野水社長は、将来的にコストダウンを図り、コンシューマー市場にも展開する考えを示している。
スターリングクーラーは、冷媒(ヘリウムガス)を膨張させると冷えるという気体の性質を利用した冷却システムで、基本原理は1816年にスコットランドのスターリング博士が発明した。現在の「FPSC」(フリーピストン・スターリング方式冷凍機)は2002年に同社が開発に成功したもので、これをベースに作られた宇宙実験用冷凍冷蔵庫「FROST」は2013年8月から国際宇宙ステーションの日本実験棟で活躍中だ。
スターリングエンジンの逆サイクルで圧縮と膨張を繰り返すFPSCは、現在主流のコンプレッサー式に比べて構造は複雑になるが、安全で省エネ、コンパクト性に優れるといった特徴がある。さらに「マイナス200度まで冷却でき、緻密な温度設定が可能。そしてコンプレッサーを持たないため振動にも強い」(野水氏)。その耐久性はロケット打ち上げのGで実証済みだ。
同社は2004年にFPSCの量産技術を確立していたが、これまでは量産効果が見込めるほどの需要に恵まれていなかった。しかし今年6月に米国の某大手クーラーボックスメーカーがFPSCの特徴に目をつけ、医療用「ワクチンクーラー」を大量発注。ツインバードからOEM供給する形で出荷され、単年度黒字化のメドが立った。同社は北米市場に販売拠点を持っていないが、今回の受注を足がかりに、まずB to B市場への展開を図る方針だ。
「当面は医療用をはじめ、半導体製造装置の冷却システムなどで育てていき、数年以内にコストダウンを図ってコンシューマー市場にも展開したい」(野水氏)。民生機として想定される商品は、アウトドア用のクーラーボックスなど。同社はこれまでもペルチェ素子を使ったポータブルタイプの温冷庫などを販売してきたが、「FPSCなら冷えるのが早く、一定の温度を維持できる。なにより“氷も作れる”クーラーボックスができる」と胸を張る。
「これまでのスターリングクーラー事業は、“技術者の思い”を優先した事業で採算はとれていなかった。しかし、製造業に連なる企業としては10年にわたる投資を結実させたい。今回の受注を足がかりに将来的には収益力のある事業に育てる」(野水氏)。
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