ジョブズの新製品発表並みの感動を受けたFire Phoneの発表
シアトルにて、現地時間2014年6月18日にAmazonのCEOジェフ・ベゾス氏が、かねてから噂になっていたAmazon製スマートフォン「Fire Phone」を発表しました(関連記事)。
最近のAmazonのハードウェアプロダクトの完成度の高さには、目を見張るものがあります。僕のブログで紹介する新しいガジェットの開封レポートでも、Amazonプロダクト率が妙に高くなってきています。
そんな感じで最近のAmazonの動向から目が離せなくなっている中、今回のFire Phoneの発表会見をYouTubeで見たら、往年のスティーブ・ジョブズによる新製品発表並みに感動してしまいました。この記事を通じて、その感動とAmazonのすごさが少しでも伝わればと思っています。
最初にお断りしておきますが、今回の記事はかなり長文になってしまいました。けれど、エンジニア視点、ものづくり視点での個人的な感想を交えながら、今回の発表会の内容を、流れに沿ってじっくり解説したいと思っています。
これまでもKindleやタブレットなど自社ハードウェアの開発は行っていながらも、あくまでサイドビジネスという感じだったAmazonですが、今回の発表を聞いていると、Apple、Googleに続く第三のデバイス開発企業のポジションに躍り出た印象を受けました。そんなAmazonの躍進っぷりを感じていただけたら幸いです。
Amazon Fire Phoneとは? その概要
発表内容に触れていく前に、今回発表されたFire Phoneについて概要を解説しておきます。
Fire PhoneはAmazonが開発したAndroidベースのスマートフォンで、Kindle Fire、Fire TVに続くAmazonが開発したハードウェアプロダクトです。OSはAndroidベースですが、「Fire OS」と名付けられていて、俗に言うAndroidデバイスとは異なり、Amazonのサービスを最大限に活用できるよう独自に拡張されています。
Google Playストアや他のGoogle純正アプリなども標準搭載されていません。基本的にはAndroidアプリとの互換性がありますが、アプリケーションは「Amazon Appstore」からインストールする必要があります。
通常、Google認定されていないAndroidデバイスは、Googleのエコシステムの恩恵を受けられないのでなかなか成功が難しいのですが、Amazonに関しては、各種Googleサービスに匹敵するサービスを独自で備えています。非Google認定Androidデバイスの中では、唯一といってもいい成功を収めているデバイスだと思います。
ということで、今回発表されたFire Phoneも、Androidベースでありながら、他のメーカーが発売している“Androidスマホ”とはひと味違う、“Amazon色”のとても強いスマホであるといえます。
右肩上がりの「Amazon Prime」会員数
ベゾス氏は発表会で、まずAmazon Primeの会員数の推移から語り始めました。発表によれば、2010年までのPrime会員数はなだらかな右肩上がりのグラフで推移していたのですが、翌2011年からは指数関数的に会員数が増加していることをアピール。
要因として、Amazon Primeビデオの開始が大きなきっかけとなり、つい最近ではAmazon Primeミュージックも開始されたことを説明。常に顧客志向を第一に、継続的なサービスの充実を続けることで、一度入会したユーザーが退会することなく、継続して利用し続けることが、このグラフの結果につながっているとアピールしました。
日本でAmazon Primeというと、「配送が早くなるだけのサービス」という印象がまだまだ強いかもしれません。しかしUSでは、単なる物販に留まらず、電子書籍、ストリーミングビデオ、ミュージック、さらにはクラウドサービスなど、次々と機能が追加されているので、ベゾス氏の説明には説得力を感じました。それにしても、この大幅な成長率にはあらためて驚かされます。
いよいよ本題、Fire Phoneの詳細
デザインと基本スペック
では、いよいよ本題のFire Phoneの発表について触れていきたいと思います。まずはハードウェアデザインと基本スペックについて語られました。
デザインは、ほぼ事前に噂系サイトでリークされていた通りでした。驚きは少なかったですが、他のFireデバイスと同様に黒を基調としたシンプルなデザインで、前面にはホームボタンすらなく、背面にAmazonのロゴがあるくらいです。サイドにもボリュームボタンとカメラボタン兼用のFirefly(後述)ボタンが並んでいる程度で、iPhoneと比較してもさらにシンプルな感じを受けました。
実物を見ていないので何とも言えませんが、一連のFireデバイスなどから想像するに、質感も十分に高そうです。個人的には嫌いじゃない、というか、無難に誰にでも受け入れられるデザインだと思います。
「ゴリラガラス3」という特殊ガラスは、通常のスマホでは液晶スクリーン部分に使われますが、Fire Phoneは背面にも装備しています。iPhoneをむき出しで利用していると、液晶部分には問題がなくても裏面が傷つくからイヤだという人も多いと思いますが、両面にゴリラガラスを装備することで背面も含めて強化を図っています。
またバンパー部分にはラバーコーティングされたアルミ素材を使っているということで、ケースなしでむき出しで無造作に利用しても十分丈夫そうです。
一つだけ残念だったのは防水機能がなかったこと。日本のAndroid系スマホでは、ほぼ標準機能となっていて常々うらやましく思っていたこともあり、期待していたのですが、防水機能は搭載されませんでした。顧客志向のAmazonならば、防水機能は必然だと思うんですが……。
一方の中身のスペックに関しては、Qualcomm製のSnapdragon 800 クアッドコア2.2GHz CPUと同社Adreno 330のGPUを備え、メモリも2GB搭載しているので、今時のハイスペックAndroidデバイスと比較しても十分なパフォーマンスで動きそうです。少なくともハードウェア的にiPhone 5sやNexus 5と比べて大きく見劣りするところは見当たりません。
画面解像度こそ、最新の1080p搭載Androidに比べれば720pと低めですが、それでも十分高解像度ですし、NFC、無線充電などの機能もしっかり押さえています。これならAndroid OSを快適に動かすのに十分なスペックを備えていると思われますし、普通の人がパフォーマンス的に不満を覚えることはなさそうです。本当に、あとは防水機能さえあれば完璧といえたでしょう……。
高解像度と明るいレンズ、光学式手ぶれ補正も備えたカメラ性能
スマホにおけるカメラ性能が、最近の機種選びの大きな要因になっていることは言うまでもありません。Appleも、初代iPhoneではカメラは完全なオマケ機能扱いだったのに、最近ではカメラ性能向上にかなりのリソースを割いて性能をアピールしています。Amazonもこの例に漏れず、Fire Phoneのカメラ性能をアピールをしました。
ポイントは1300万画像という高解像度とF2の明るいレンズ、さらに光学式手ぶれ補正です。iPhone 5sの800万画素、F2.2、ソフトウェア手ぶれ補正というスペックと比較しても、少なくともカタログスペック的にはiPhone 5sのカメラ性能を大幅に上回っているように見えます。
実際、発表会では、SamsungのGalaxy S5、Fire Phone、iPhone 5sそれぞれで撮影した写真を横並びにして、Fire Phoneで撮影された写真が一番ノイズか少なく、シャープできれいに撮影できることをアピールしていました。
最近のカメラ性能では、ハードウェアスペックが絶対的な差を生み出すわけではなく、撮影されたデータをソフトウェア的にいかに最適に現像するかによって、写真の仕上がりが変わってきます。実際iPhone 5sなどは、ハードウェアスペックに優れる機種よりも写真がきれいだと言われるほど、ソフトウェア処理に定評があります。
それでもやはり、ハードウェアスペックが良ければ良いほどアドバンテージになるのは事実です。また、光学式手ぶれ補正などは、ソフトウェア手ぶれ補正に比べてまだまだ性能が高いので、個人的には、カメラ性能はかなり良さそうだなと感じています。
手ぶれに強いということは、夜景や室内など光が足りない状況で、よりシャッタースピードを遅くして明るさを稼げるということですし、明るいレンズは、同じシャッタースピードでもより明るい写真が撮れるのでかなり期待が持てます。ベゾス氏いわく、「他のスマホカメラに比べて4倍光を稼げる」と主張していました。
そんなわけで、カメラ性能だけでもFire Phoneに引かれる人はいるんじゃないかと思います。
もう一つ、さりげなくスゴいことを発表していたことに気付きましたか? 容量無制限のフォトストレージの提供です。
最近では、iCloudフォトやGoogleなどでも無制限に写真をアップロードできますが、まだ写真サイズが制限されていて、カメラで撮影したオリジナルのサイズを無制限にアップロードすることはできません。その点Fire Phoneでは、撮った写真のクオリティを落とすことなくオリジナルデータをクラウドでバックアップ、共有できます。これは写真好きにとってものすごく大きなメリットです。
「無制限」というのがFire Phoneからのアップロードのみなのか、それともFire Phoneを持っていればPCなどからでも無制限に利用できるのかなど、詳細は語られませんでしたが、こんな大判振る舞いをサラリと発表できるのも自前のクラウドインフラがあるからこそ。さすがAmazon、自社のリソースを最大限に生かしている感じです。
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