フィンランドの教育課程は幼稚園から小中高、大学まですべて無償。日本でも紹介されることが多いように、教育水準の高さは世界的にも有名だ。
経済協力開発機構(OECD)が世界65カ国の15歳を対象に行う国際学力テスト(PISA)の2012年の結果は、数学的リテラシーで12位、読解力で6位、科学的リテラシーで5位となった。相対的に見て悪い結果ではないが、特に理数系に関して「凋落」「低調気味」という論調も見られるという。
教育文化庁のエサ・スオミネン氏は「もちろんPISAの結果を上げることが目的ではないが、動向としては注視している。今の時代に必要な知識やスキルを想定してカリキュラムをアップデートしていきたい」と話す。
フィンランドでは、約10年に1度カリキュラム改正が行われており、2016年から小学校の必修科目としてプログラミングが加わることが決まっている。1〜2年生からプログラミングに触れ、ツールやゲームを自ら作る経験を組み込む。
「今やテクノロジーと生活は切っても切り離せず、コンピュータサイエンスに関する知識は世界を正しく知るために必要不可欠。特殊な技能ではなく、市民として一般的な知識になっていくはず。プログラマー育成に力を入れるというより、すべての人に機会を与えるのが目的」(スオミネン氏)
とはいえ、まったく新しいことを新たなツールで教えるのは教師にとって負担になることも事実。教師側から反発や不安の声はないのか——という問いにスオミネン氏は「子どもたちは学校で使うものよりハイスペックなデバイスを家で使っているだろうし、むしろ若い彼らのほうが教師より使いこなせることも多いだろう」と笑う。
それでも公的な教育課程に組み込んで進めていく意味として、「技術への理解は、今後職業に関わらず広く国民に必要なリテラシーだから。子どもよりもむしろ大人の方が新しいものを身に付けるのは大変かもしれないが、避けていても仕方がないし、いずれ必ずそちらが便利になっていく。教育を通して、長期的に社会全体を底上げできる」と展望を話す。
学校や教師の裁量が大きいこともポイントだ。授業に使うツールや教科書、単元の進め方などは各学校で異なるため、すでに教育現場でスマートデバイスや教育ゲームのアプリが使われている事例は少なくない。
フィンランドでは教師になるために修士課程修了が義務付けられており、狭き門かつ尊敬される職業の1つだという。人気の理由は先に述べたような「責任と自由」があること。国から与えられる指導要領は最低限の大筋であり、教師自身が楽しみながら、熱意を持って新たな分野にチャレンジすることが重視されているそうだ。
政府としては、現場レベルに手法はまかせつつ、効果的な指導法や、簡単に安全に使える教材やツール、知育ゲームなどをクラウドベースで全国で共有していく予定。プログラミング自体を学ぶ——というだけでなく、数学や理科、地理など他の教科でもデジタル教材を活用したり、子ども自身で学習ツールを作るなど、科目に関わらず横断的に、教育全体をITでアップデートしたいという。
「タブレットやスマホが普及し、子どもたちの中毒的な利用や課金問題などが悪い側面として取り上げられがちだが、技術やツールそれ自体が悪いわけではない。悪として排除するのではなく、よい方向に最大限生かせる方法を教育現場で考えていければ」(スオミネン氏)
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