ドライバーが、自動車の運転中にカーナビゲーションの画面を確認するには、車両の前方から視線を外す必要がある。しかし、その一瞬に前方車両が急ブレーキを掛けたり、横から歩行者が現れたりすれば、ドライバーが反応できずに事故につながることもある。
このようにドライバーが車両の前方から視線を外すことなく、カーナビゲーションなどの情報を確認できるようにするために用いられているのがヘッドアップディスプレイ(HUD)である。HUDは、フロントガラスや車両の前方を見通せる透明なスクリーンに情報を表示するシステムで、もともとは戦闘機のヘルメットに計器情報などを表示する用途に使用されていた。
自動車向けでは、高級車の数十万円のオプションとして販売されるなど利用は限定されていたが、最近になって急激に低価格化進んでいる。
その代表例となるのが、パイオニアが2012年7月に発売したカーナビゲーションシステム「サイバーナビ」のHUDユニットである(関連記事:なぜ映像が浮かび上がるの? 近未来のカーナビが登場した)。ドライバーの視線の前に設置したコンバイナーに、レーザー光源によるフルカラーの情報を投影し、ドライバーの眼から約3m前方に90×30cm(37インチディスプレイ)相当の大きさで表示するというものだ。HUDユニットの価格は10万円で、従来のものと比べてもはるかに安価だった。
JVCケンウッドのカーナビゲーションシステム「彩速ナビ」も2013年5月に、独自開発したHUDユニットをセットにした製品を発表している。
2013年7月8日(米国時間)には、PND(Personal Navigation Device)で知られるGARMINが、同社のスマートフォン向けカ—ナビゲーションアプリと無線接続で連携するHUDを発表している。サイバーナビや彩速ナビのように、大画面のフルカラー表示ができるわけではないものの、価格は129ドル99セント(約1万3000円)と極めて安価だ。
マツダが2013年秋に発売する新型「アクセラ」も、「ADD(Active Driving Display)」と呼ぶHUDを搭載する予定だ(関連記事:新型「アクセラ」は待望の小型「アテンザ」か、魂動+SKYACTIVにHUDも搭載)。ADDは、運転席のメーターフードの後ろに組み込まれており、エンジン始動と同時にポップアップして、車速やナビゲーションの路線案内表示などさまざまな運転情報を表示する。
HUDの市場拡大と低価格化は、マイクロプロジェクター向けに開発された映像投影デバイスの小型化やコスト削減が後押ししている。例えば、Texas Instrumentsは、プロジェクターに広く利用されているDLP(Digital Light Processing)を車載用のディスプレイやHUDに展開する方針を表明している(関連記事:DLP技術の車載利用を目指すTI、センターコンソールとHUDのデモを披露)。
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