ロザンゼルス中心部から車で約1時間、世界で最初に建設された「ディズニーランド」を目の前に臨む、アナハイムコンベンションセンターでシトリックスの年次イベント「Citrix Synergy 2013」が開幕した。
5月22日(現地時間)には、同社CEOのマーク・テンプルトン(Mark Templeton)氏が、昨年のSynergyで大々的に発表した「Project Avalon(アバロン)」がついに結実し、製品化した「XenDesktop 7」など、各種アップデートを紹介した。
「StorageZones」がWindows Azureに対応
テンプルトン氏は、まず直近のアップデート状況を説明。昨年のSynergyで発表された「ShareFile with StorageZones」は、企業向けオンラインストレージサービス「ShareFile」のセキュリティリスクをさらに低減するために、フォルダ単位で保存先を選べる「StorageZones」を組み合わせたものだ。今回、保存先をさらに追加することが可能な「StorageZone Connectors」をリリースし、Windows Azure上に保存することも可能となった。「以前からAzure上でも利用したいというユーザーからの声が多かったため、対応した」という同氏の説明に、会場からは大きな歓声が湧いていた。
また、新たに「Citrix Receiver for Windows 8」が追加。さらに新製品として、Macintosh上でXenDesktopを利用できる「DesktopPlayer for Mac」が発表された。これはXenDesktopのアドオンとして機能し、6月にテックプレビュー版が提供開始されるという。
今年、CIOの関心事は「モバイル、モバイル、モバイル」
続いてテンプルトン氏は、米ガートナーの調査「2013年の戦略的技術トレンドトップ10」の結果を示し、「今年のCIOの関心事トップ10のうち、上位3つはモバイルで占められている。それほどいま、モバイルへの関心は高い」と語り、世間のモバイルへの関心の高さを強調した。
シトリックスがモバイル戦略において重視しているのが、1年前に発表した「Project Avalon」だ。Project Avalonは、クラウド環境上にVDI環境を構築するためのソフトウェア群。2012年5月にサンフランシスコで開催された「Citrix Synergy 2012」でプロジェクトの概要が発表され、半年後の11月にスペイン・バルセロナで行われた「Citrix Synergy 2012 in Barcelona」において、「Excalibur(エクスカリバー)」と「Merlin(マーリン)」に発展している。
ExcaliburはXenDesktopの新バージョンという位置付けで、SynergyではExcaliburにアクセスしたiPad上でWindows 8を動かすデモなどを紹介。製品化に向けた開発が順調に進んでいることをアピールしていた。Merlinは、Excalibur環境の統合管理やセルフサービスプロビジョニングなどの各種機能を提供するためのツールとして紹介された。
そして今回、Project Avalonを実現する最初の製品として発表されたのが「XenDesktop 7」だ。XenDesktop 7は主に、デザインや構築を行える「XenDesktop Studio」と、管理/サポート機能を持つ「XenDesktop Director」で構成される。
XenDesktop 7では、まずHDX Mobileが強化された。HDXは通信帯域を最適化するテクノロジだが、HDX Mobileではモバイル端末に最適化するためにプロトコルを改善し、帯域幅が従来の半分になったという。これにより、3G回線であってもHDのストリーミング映像が閲覧に耐え得る品質になっている。また、GPSやセンサー類、カメラなどネイティブな機能を利用できるようになった。
XenDesktop 7のウリの1つは、インストールと管理の容易性だ。インストールはファイル1つを8クリックで終了するという。コンソールも2つにまとめられ操作が簡易になっている。また、Windows Server 2012に対応したほか、System Center 2012にも接続して管理できるようになった。
.NET開発者向けにSDKも提供
XenDesktop 7のデモでは、「XenDesktop Studio」を使って簡単にユーザーグループを作成しVDI環境を用意するデモや、ブラウザ上から「XenDesktop Director」を開き、NetScalerから送られてくるパケット状況を監視するシーンを紹介した。サーバのメモリ状況を監視するシーンでは、必要に応じてワンクリックでメモリを増量する様を実演し、観客からの歓声を浴びていた。
一方、XenDesktopのような仮想デスクトップ環境では、サーバ側のGPU性能の問題で描画機能が通常のデスクトップ環境と比べると弱く、動画編集やCADなど、多くのGPUパワーを必要とするアプリケーションには向いていないという問題があった。シトリックスではこの問題に対処すべく従前よりNVIDIAと共同開発をしており、このたび「NVIDIA.GRID vGPU」を発表した。NVIDIA.GRID vGPUは、新しいOpenGLをサポートしているほか、VDI環境向けにXenServerのGPUにも対応し、多くの描画機能を必要とするアプリケーションユーザーに提供していく。
また、開発者向けにSDK「Mobile SDK for Windows Apps」を新たに提供する。SDKでは、50以上のAPIを用意しているため、.NETで作ったアプリケーションを容易にカスタマイズできるという。
XenDesktop 7は、従来の「VDI Edition」「Enterprise Edition」「Platinum Edition」の3エディションに加え、新たにXenAppの機能を包含した「App Edition」が提供される。XenDesktop 7は6月から順次リリース予定。
テンプルトン氏は、「XenAppはXenDesktop 7に包含されたが、XenAppは今後も引き続きサポートしていく。直近では、XenApp 6.5 Feature Pack 2が出る予定だ」とした。
App StoreやGoogle Play Storeのエンタープライズ版を提供
続いてテンプルトン氏が紹介するのが、同社のモバイル中核製品「XenMobile」だ。シトリックスは、2012年12月にMDM(Mobile Device Management)大手のZenpriseを買収。ここ数カ月間はZenpriseのMDM技術を同社の「Citrix CloudGateway」や「Me@Work」と統合するのに注力していたという。
XenMobileの1製品として紹介されたのが、「Worx Enroll」と「Worx Home」だ。Worx Enrollは自分の私用端末を会社で利用する場合に、自分で端末登録を行うためのもの。登録後、サーバ側で認証されると、あらかじめ登録されたアプリケーションが利用可能になる。Worx Homeは、端末の設定やサポートを行うアプリケーション。これらは、シトリックスのMDXテクノロジで保護された状態で通信し、端末へのデータ移動制限や紛失時のロックや消去などの機能も備える。具体的には、アプリケーションの通信をコンテナ化し、マイクロVPNで通信することで実現している。
また、外部ベンダによるXenMobile向けアプリケーションの開発を促すためにSDK「Worx App SDK」の提供を開始。すでにベータ版利用者は60人を超え、80以上のアプリが今夏にオープン予定のXenMobile向けアプリケーションストア「Worx App Gallery」に登録されているという。
テンプルトン氏は「コンシューマ向けには、アップルの『App Store』やグーグルの『Google Play Store』などが用意されている。当社はこれらのエンタープライズ版を提供したい。XenMobileという、セキュアで管理可能なエンタープライズ向けのプラットフォームを用意したので、今後登録アプリケーションを増やしていきたい」と今後の方向性を示した。
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