気付けば、ハードウェアからボタンが減っていた……
スマートフォンやタブレットなど、近年はタッチパネルの普及が目覚ましい。液晶ディスプレイを搭載したさまざまな機器がタッチ対応になり、それが当たり前になったことで、むしろタッチでないほうが不自然に感じられる状況も生まれつつある。タッチ対応していない機器なのにうっかり画面をタップしてしまった経験は、多くの人にあるだろう。
タッチパネルの普及に伴い、減少しつつあるのが物理ボタンだ。例えばAndroid端末の場合、かつてはホームボタンなどに物理ボタンを採用した端末も多かったが、現在のAndroid 4.x系列ではホームボタンや戻るボタンなど、すべてがタッチ操作に置き換わっている。電子ブックリーダーも、かつてはボタンだらけの製品が多かったのが、昨今はどこをどう触ればメニューを表示できるのか分からないくらい、ボタンレスの製品ばかりだ。
ここ数年のこうした動きは、ハードウェアやインタフェースの歴史に刻まれるようなダイナミックな変化だが、単にタッチスクリーンの精度が増したとか、ユーザビリティを追求したという理由だけでは、急速にボタンがなくなる説明として不十分だ。実のところ、昨今の物理ボタンの減少には、単にタッチパネルで代用できるからという理由以外に、メーカー側のさまざまな事情も絡んでいる。今回はこの動きについて見ていこう。
主たる要因は「コスト」と「故障率」
物理ボタンをそのままタッチパネルに置き換えた場合、かえって使いにくくなる点も多い。具体的には、ボタンを押した際の感触がないことや、隣のキーとの区切りを指先で読み取りにくいためにミスタイプを誘発しやすいことで、特に文字入力の頻度が高いユーザーに、タブレット向けの外付けキーボードがもてはやされる要因にもなっている。
にもかかわらず、タッチ操作に一本化され、物理キーが姿を消しつつある背景には、物理キーを完全になくしてしまうデメリットを上回るメリットがタッチパネルにあり、かつメーカーの利害と一致しているからだ。
真っ先に挙げられる要因がコストだ。物理ボタンの場合、自社で製造するにせよ、外注に作らせて買うにせよ、部品として独立している限り、必ず部品1個あたりのコストが計上される。これらがタッチパネルという一組のモジュールに収まってしまえば、それだけコストが浮く。
さらに部品点数が少なくなることで、在庫管理の手間も減り、発注や入庫時の検品、棚卸しといった作業も削減できる。製造にあたっても、部品が独立せず一体化していれば、1つ1つの部品のチェックをしなくとも、通電を中心にチェックすればよいし、組み立てミスも減る。メーカーにとってはメリットだらけなのだ。
もう1つの大きな理由は故障率だ。物理ボタンは機械部品が動いて信号を伝える構造上、外部からの突発的な衝撃に弱く、また摩耗するために寿命が短い。また物理ボタンがあるということはその周囲には隙間があるわけで、そこから粉塵(ふんじん)や水滴といった異物が侵入することで、動かなくなる危険性を秘めている。
その点タッチパネルであれば、こうした物理的な衝撃にも強く、故障が発生するにしても突発的な故障ではなく、耐用回数の限界に基づいた寿命であることが多い。ボタン単位で部品が存在せずにタッチパネルを含めた1つのモジュールとして構成されているため、基準となる年数を迎える前に故障が起こった場合、そのモジュールを供給している部品メーカーに責任を負わせやすい、という事情もある。
余談だが、PCおよびその周辺機器が故障する原因のうち一定の割合を占めるのが、ペットによるいたずらだ。飼っているインコがキーボードのキーをはがしてしまったという悲劇的な写真はネットでおなじみだが、それ以外にも小動物がケーブルなどをかじったり、尿をかけたりといった要因で動かなくなって修理センターに持ち込まれる機器の数は、PCおよび周辺機器メーカーが受け付ける修理品のうち、少なからぬ割合を占めている。
これらはかなり非衛生的な状態で送りつけられることも多く、検査を行う現場の人間を悩ませる要因になっている。ペットが加えたダメージの多くは、飼い主であるユーザーにとって身に覚えがないため、製品そのものの不具合を疑い、メーカーに故障品を送り付けて検査を要求してくることが多いのだ。中にはペットが尿をかけた機器を「異臭がする」とメーカーに送りつけてくる人もいたりする。
ペットが原因のこうした故障はほんの一例だが、機器から物理ボタンをなくすことに始まり、発熱を抑えて放熱用のスロットをなくし、かつコネクタなどにフタをつけて防塵防滴仕様にすれば、外部からの異物侵入による故障は限りなく減らすことができる。従来はどれだけ防塵防滴を心がけても物理ボタンの存在がネックになっていたのが、タッチパネルの普及によって、ようやく物理ボタンをなくせる土壌が整ったというわけである。
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