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EPUB制作ガイドとの付き合い方

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電書ちゃんねるとは

電子書籍のいろんな話題について、会話形式で楽しく考えてみる企画サイトです。入門者向けの内容からマニアックな内容まで気分次第でランダムに掲載します。君も電書ちゃんねるを読んで友達に差をつけよう。

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電書ちゃん

電子書籍の世界を案内してくれる謎の女の子。

センスの悪い意見には容赦なくツッコむよ。

口癖は「あたしあんたのそういうところが嫌い」


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ろす

@lost_and_found

この企画では電書ちゃんのアシスタントに降格。混迷を極める業界の中で右往左往。お前の明日はどっちだ!? どういうわけかEPUB制作ツール「でんでんコンバーター」でJEPA電子出版アワード2013の大賞を受賞する羽目に。


電書ちゃん EPUB制作を解説した文書っていっぱいあるけど、情報が多すぎてかえって振り回されちゃうこともあるのよね。

ろす そこで、今日はさまざまなEPUB制作ガイドに対する基本的な考え方について話したいと思います。セルフパブリッシングの人よりも、商業出版の世界で電子書籍制作に関わり始めた人向けの内容です。

ザ・原点(EPUBの仕様とベストプラクティス)

ろす まず最も根底にあるのはEPUBを策定した団体IDPFが公開しているEPUBの仕様だよね。なかなか巨大な代物です。そもそも出版物とは多様なもの。一般書、コミック、専門書、雑誌、絵本、オーディオブックなどなど。その結果、あらゆる出版物に使える汎用的なフォーマットを目指すEPUBの仕様も肥大化してゆきました。

 仕様書とIMAGEDRIVEさんによる日本語訳はこちら。

電書ちゃん 技術文書だし分量も多いから「電子書籍制作者はEPUBの仕様に目を通しなさいっ!」っていうのは現実的な話じゃないわね。

EPUB 3 Best PracticesEPUB 3 Best Practices

ろす そこでIDPFでは仕様のほかに制作者向けのベストプラクティス「EPUB 3 Best Practices」(O'Reilly Media)も出版しています。でも残念ながら日本語訳はありません。

電書ちゃん 日本の人に向けて「電子書籍制作者はベストプラクティスに目を通しなさいっ!」も現実的な話ではない、と。

ろす さらに注意すべき点があります。EPUBの仕様やベストプラクティスに書かれていることは、必ずしも実際に利用できるとは限らないという点です。利用できない機能が生じている原因には次のようなものがあります。

  • 仕様が安定していない(仕様面の問題)
  • リーディングシステム(ビューワ)がまだ対応していない(実装面の問題)
  • 対応した制作ツールがない(制作環境の問題)

電書ちゃん 仕様やベストプラクティスに書かれていることは、あくまでもEPUBの理想の姿、と考える必要があるわけね。

ストアで売れなきゃ元も子もない(ストアが提供する制作ガイド)

ろす むしろ自分の電子書籍をどこかのストア(書店)で販売しようとしたら、ストアの公開している制作ガイドに従うのが現実的です。代表的なものには、

  • 「Kindle パブリッシング ガイドライン」および「日本語サポート補足資料」(Kindleストア)
  • 「iBookStore Asset Guide」(AppleのiBooks Store。iTunes Connectへの登録が必要)

があります。この他にも楽天Koboなどは一般公開されていないけど出版社限定で制作ガイドを提供したりしているみたい。

電書ちゃん ストアのガイドはIDPFのものとどう違うのかしら?

ろす 大抵のストアは専用のリーディングシステムを提供しているから、それがEPUBのどんな機能に対応しているのかは把握しやすいね。あとはファイルサイズや画像の大きさなど、仕様で規定されていない制限を設けていたりするので、制作者はそこにも注意しなくちゃいけない。EPUBの仕様とストアのガイドを比較してみたイメージ図が次のものです。

EPUBの仕様とストアのガイドの比較。ストアではEPUBのすべての仕様をカバーしているわけではないEPUBの仕様とストアのガイドの比較。ストアではEPUBのすべての仕様をカバーしているわけではない

電書ちゃん ストアではEPUBの仕様に制限を加えているのは分かるわ。でも仕様からはみ出している部分もあるわね。

ろす ストアによる独自拡張だよ。仕様にない機能を加えて利便性を高めているストアもあるからね。

電書ちゃん ふーん。とにかく「電子書籍制作者はストアのガイドに目を通しなさいっ!」って言うのが現実解といっていいのかしら。

ろす うーん。確かにストアのガイドには目を通すべきなんだけど、いろんなストアでコンテンツを販売しようとすると、だんだん辛くなってくるんだよね。ストアによって対応している機能が違っていたりガイドが公開されていなかったりするから。

電書ちゃん さあ困ったわね。

でっかい仕様をちっちゃく使え(電書協ガイド・用途を限定したサブセット)

ろす この問題をどうにかしようとして生まれたガイドとして日本電子書籍出版社協会による「電書協EPUB 3 制作ガイド」(通称・電書協ガイド)が挙げられます。電書協ガイドの大きな特徴は、用途を制限することで制作効率を高めている点です。

電書ちゃん 具体的には?

ろす EPUBではいろんな出版物を作れるけど、電書協ガイドは文字中心の一般書とコミックの制作に特化しているということ。さまざまなストアのリーディングシステムでの表示を検証した上で、安定して利用できる表現を見極めているから、これらのジャンルの出版物を作るにはとても効果的です。タグの書き方や使える文字も規定されているしHTMLやCSSのテンプレートも提供されています。

 一方、技術書や雑誌を作りたい人が利用すると、いろいろ足りない点がでてくるでしょう。

電書ちゃん 特定の目的のために、仕様の一部だけを使うようにしたものを、技術用語ではサブセットとかプロファイルと呼ぶわよね。つまり電書協ガイドは一般書とコミックに特化したEPUBのサブセットと理解すればよさそうね。

ろす そういうことだね。

  • 多くの機能を使うと、テスト項目が増えて制作コストがかさむ
  • 大きな出版社は複数の制作会社に発注するため、制作会社によって作り方にバラつきがあると困る
  • 作り方の自由度が高いと、技術的な判断を人間が下すことになり、制作者に高いスキルが求められる

 上記のような問題を軽減するためにサブセットは重要です。2012年以降、出版社のコンテンツがどんどんストアで売られるようになってきたのは電書協ガイドの功績が大きいと思う。

電書ちゃん さっきの図に電書協ガイドをあてはめるとどんな感じになるのかしら?

ろす こんな感じ。図の「EBPAJ Guide」が電書協ガイドのことです。

EPUBの仕様とストアのガイドと電書協ガイドの比較。電書協ガイドがカバーする範囲は、EPUBの仕様とストアのガイドが重なる領域のごく一部に過ぎないEPUBの仕様とストアのガイドと電書協ガイドの比較。電書協ガイドがカバーする範囲は、EPUBの仕様とストアのガイドが重なる領域のごく一部に過ぎない

 電書協ガイドはEPUB準拠を前提としているので、ほぼEPUBの円の中に収まる。ジャンルが限られているので、ストアのガイドよりもカバーする範囲は小さい。電書協はストアに電書協ガイドの対応を働きかけているけど、ストア側でまだ対応していない部分もある。そして、出版社からEPUBの仕様に対する要望が少しだけ含まれていたりする。それがちょっとはみ出している部分。

電書ちゃん EPUBは大きな仕様だけど、すべてのガイドが重なる領域となるとずいぶん狭いのね。

サブサブセット・サブサブサブセット(電書協ガイドの派生ガイド)

ろす ところがこの電書協ガイドはもっと狭く使うことを想定して作られているんだよね。

 よく目を通してみると、出版社ごとの裁量に委ねられている箇所がちらほらある。電書協ガイドはひな形であって、実際の出版社はさらに独自の制限を加えることによって自社の制作マニュアルを作っているんだ。

電書ちゃん つまりサブセットである電書協ガイドのそのまたサブセットというわけね。

ろす 電書協ガイドから派生したガイドとして一般公開されているものとしては、古い順に

が挙げられます。もっとも、KADOKAWA-EPUB制作仕様では電書協ガイドに含まれない新しめの表現も取り入れているから、厳密なサブセットとはいえないかもしれないけど。

電書ちゃん 最後の電書ラボ EPUB制作仕様は聞いたことないわね。

ろす 電書ラボは2014年5月8日にオープンしたばかりの任意団体で、このEPUB制作仕様はまだβ版なんだ。

 電書協ガイドはまだ技術用語が多く使われていて、技術担当者のいない中小出版社では使いこなせないこともあったらしい。そこで電書ラボでは、出版社になじみのある平易な表現を使ったガイドや誰もが使えるツールを用意して支援したいんだって。緊デジのEPUB制作に関わった人が多く参加していて、そこで得られた知見が活かされてゆくはずだと思う。

電書ちゃん 何かと批判されることの多い緊デジだけど、現場で自分のできることを一生懸命頑張った人はいっぱいいるのよね。その成果が電子書籍の世界に還元されるのなら、それは公的な意義のあることだと思うわ。

ろす 僕はそうした動きを「きれいな緊デジ」と呼んでいる。

電書ちゃん ろすちゃん、その言葉にはいろいろと語弊が……。

ろす はい。というわけで、今回はいろんなEPUBの制作ガイドとその特徴や考え方を見てゆきました。EPUBの仕様はでっかいので、実際に使うにはいろいろな制限を加えることが効率化につながります。

電書ちゃん 電書協ガイドは一般書とコミック向けだけど、他のジャンルの本を制作に関わっている人も、自分たちなりのサブセットを定義してゆくといいんじゃないかしら。

 いろいろな制限があってもどかしい面もあるけれど、新しい技術の安定性を見極めて、少しずつ取り入れながら進化してきたのがWebの歴史。その流れの中に電子書籍もあるってことなのよね。

 じゃあ今回はこれでおしまい。バイバイ。またね。

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