4月9日にリリースされた「LINEマンガ」は出版業界に少なからず衝撃を与えた。国内4500万人以上、全世界では1億7000万人という巨大なユーザーを抱えるコミュニケーションサービス「LINE」。昨年プラットフォーム化を発表し、ゲームなどを中心にコンテンツサービスを拡充してきたが、遂に電子書籍にその食指を伸ばしたのだ。
すでに100万ダウンロードを超えたというLINEマンガ。スタンプを始めとしてLINEとの連携をどう図るのか、何故マンガだけに特化しているのか、など気になる点を担当者の村田朋良さんにぶつけてみた。
タイトル数では競わずコミュニケーションを重視
—— 現在多くの電子書店がタイトル数(10数万点前後)の充実を競う中、LINEマンガはその名の通りマンガに特化して(約3万5000点)展開しています。その理由は?
村田 世界を視野に入れたとき、日本のコンテンツとして最も充実していて、かつ発信力があるジャンルと言えばやはりマンガですので、まずはマンガからチャレンジしていこうということになりました。
また、LINEゲームでは、ゲームそのものをやりこむというよりは、これまでスマホでゲームをやってこなかったライトユーザーに、LINEの友だちとのコミュニケーションのひとつの手段として、積極的にゲームを楽しんでもらえています。そこで培った、ライトユーザーにも楽しんでもらうためのノウハウを生かしやすいのもマンガだという判断がありました。
—— 確かにLINEマンガにも、友だちにマンガを薦めることでマンガの購入に使用できるポイント(ボーナスコイン)が得られる仕組みが備わっていますね。文字ベースの作品ではそういったコミュニケーションは成立しづらいのでしょうか?
村田 マンガだと話題の新刊が出たときにそれを話題にしたり、週刊誌の発売日にそれを友だち同士で回し読みしたりと、コミュニケーションがリアルな場で活発に行われていますよね。そのコミュニケーションが、LINEというプラットフォームに親和性が高いと考えました。
LINEゲームでは、自分の記録した得点を友だちとすぐ共有でき、コミュニケーションが自然かつ、スピーディに生まれています。その感覚は読了までに比較的時間がかかる小説より、読み終わるまでの消費のスピードが非常に早いマンガのほうがより実現しやすい。実際にLINEマンガでは毎日1万冊以上のマンガがトークやホームで共有され、マンガを介したコミュニケーションが非常に活発に行われています。成立しづらいというよりは、マンガのほうがLINEにより適していると判断したので、マンガに特化したサービスにしました。
—— そういう意味では、いわゆるガラケー時代の電子マンガのように、エピソード単位で作品を提供することは考えられなかったのでしょうか? より消費のサイクルが早くなるのではないかと思うのですが?
村田 さまざまな議論はありましたが、現在の市場のトレンドにあわせた電子書籍の配信フォーマットを採用しています(編注:LINEマンガはメディアドゥの汎用コンテンツ配信エンジンを採用している)。配信フォーマットで差別化を図ることに重きを置くのではなく、LINEとの連携機能を充実させて、どのようにコミュニケーションを実現するかという点で差別化を目指しています。
また、コンテンツは標準的なフォーマットですが、ページ送りのしやすさやローディングのスピード、続刊レコメンドなど、ユーザビリティを高めることには拘りました。
LINEマンガでは、友だちにマンガをお薦めする場合、特定の友だちに直接「トーク」で薦める方法と、自分の友だち全員に「ホーム」を通じて薦めする方法の2種類があります。比率としてはトークでお薦めされることが多いのですが、ホームも合わせると、1日に数万冊のマンガがLINEを通じてレコメンドされています。
そうやって活発にお薦めされたマンガが実際に購入されるコンバージョンも徐々に高まってきていて、コミュニケーションがマンガの購入につながっているという手応えを感じています。LINE上の友だちからのレコメンデーションと、電子書籍ならではの立ち読みの仕組みが功を奏しているのではないでしょうか。
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