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最先端のテクノロジーが作り出す風景

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 ポストPC機器と呼ばれるスマートフォンやタブレットの台頭で、面白い話題の減ってしまったPC、特に卓上型のコンピューター。最近ではWebブラウザや電子メール、そして事務用ソフトのための機械というイメージが強くなり過ぎたが、これだけなら一番非力なマシンやタブレットでも十分だ。そのため、新しい活用と言うと、まずはポストPC機器から出てくるということが増えてしまった。

 今の最先端の高性能な卓上型コンピューターを使えば、ものすごく感動的な表現ができるが、今や見慣れてしまったテレビのCGを除くと、日常生活でこうした高性能なPCが生み出すものはなかなか見つからない。

 そこで本記事では、最先端コンピューターを使った映像表現や体験のすごさを実感できる、この春休みに押さえておきたい注目イベントのうち、取材ができたものをまとめて紹介したい。

プロジェクションマッピングの最高峰——鶴ヶ城プロジェクションマッピング はるか2014「庄助の春こい絵巻」

og_iventmatome_001.jpg福島県会津若松市の鶴ヶ城

 東日本大震災を受けて制作されたNHK大河ドラマ「八重の桜」のスタッフらが2013年に始めた、福島県会津若松市の鶴ヶ城天守閣をまるまる映像のキャンバスに使った大規模プロジェクションマッピング。手がけたのは、NHKエンタープライズの森内大輔氏が率いるスタッフだ。同スタッフは、あまりに大勢の観客が集まって8日間上映するはずが、途中で中止になった幻の東京駅でのプロジェクションマッピング「TOKYO STATION VISION」や「ダイオウイカ」プロジェクションマッピングでも知られている。

 昨年は坂本龍一氏が作った「八重の桜」のオープニング曲にあわせて、会津若松の季節の風景を描き出す映像を制作し、2日間6回の上映が行なわれ、オープニングには「八重の桜」で主役を演じた女優の綾瀬はるかさんも来場した。これは大きな話題になり、後にDVDも発売されている。ただし、あまりに話題が大きかったため、わざわざ遠方から足を運んだにも関わらず、入場制限に見れなかった人も大勢いたようだ。

 そこで2014年はその反省を生かし、上映回数を大幅に増やしたうえで、観覧を完全事前予約制にした。1日4回の上映で、すでに初日15日と16日の2日間、8回分の上映が終わっているが、19日(水)、20日(木)、21日(金・祝日)、22日(土)、23日(日)の4日間、20回分の上映が残っている。16回の上映では新作の「庄助の春こい絵巻」に加え、2013年のプロジェクションマッピングもあわせて2本上映するので、昨年、見逃した人にもうれしいところ。

 入場は無料で、開催開始前の14日時点ですでに3万5000人の事前予約が入り、Webページからの観覧申し込みは完売となっているが、入場確約と宿泊がセットになったプランであれば、まだ余裕があるという。宿泊プランは安いものは3000円代のビジネスホテルから、2万円以上の大正ロマン溢れる歴史的景観指定建造物の宿まで選べる(プロジェクションマッピングの入場は無料なので、交通費を別にすると、かかるのは実質、宿代だけ)。

 新作プロジェクションマッピングのタイトルは「庄助の春こい絵巻」。庄助とは福島県会津地方の民謡「会津磐梯山」に出てくる小原庄助。温厚で明るい性格で誰からも愛され、朝寝・朝酒・朝湯好きで財産をつぶしたひょうきんなキャラクターである。音楽を手がけたSachiko Mさんは「元祖ご当地ゆるキャラ」と紹介する。「(昨年の)『八重の桜』はもの悲しげだったので、今回はそれとは対照的に明るく、はなやか、そしてにぎやかな作品にしたかった。さらにより地域に寄り添った作品にしたかったので、会津磐梯山や彼岸獅子といった要素を盛り込んだ」と森内氏は語る。

 愛されるゆるキャラ、小原庄助さんが宴会を開くと、そのにぎやかで楽しそうな雰囲気に森の精霊たちが集まってきて盛り上がり、最後にはその熱気であたたかな春がやってくる、というストーリーだ。

 この時代を超え、全国的に親しまれるている「ゆるキャラ」をモチーフにし、日本を代表する影絵作家、藤城清治氏の影絵のキャラクターを橋本大佑氏がコンピューターアニメーション化。「今や全国で行なわれるようになったプロジェクションマッピングだが、同じ光で絵を描くということであれば、古来からある伝統的な『影絵』や江戸時代で言えば『写し絵』という文化があり、光と影を使って映像を作るという技法の点でも共通点が多い。鶴ヶ城という歴史的建造物に映像を投影するのであれば、伝統的な影絵が相性がいいのではないかと、今回、御歳90歳になる藤城清治さんに協力をあおいだ」と製作の背景を紹介する。

 この作品で音楽を担当したのは、人気ドラマ「あまちゃん」の音楽を手がけた大友良英氏とSachiko M氏のコンビで、この2人は作品のストーリー作りにも大きく関与した。音楽面について大友氏は「地元、会津小松獅子団の方々、あまちゃんスペシャルビッグバンドのかなり多くのメンバー、ポップスのオーケストラである金原千恵子ストリングス、雅楽の奏者の方々と伝統的音楽からジャズ、ポップスそしてクラシックまで、あらゆる音楽の人たち、総勢30名が協力した」と語り、上映中にはそれら異ジャンルの音楽が1つになる瞬間があり、そこが1番の聞き所とSachiko M氏が付け加える。彼岸獅子はリズムが独特で、ほかの音楽とテンポなどがあわせづらかったが、「そこは科学のチカラを使ってなんとかした」と大友氏。

 高さ36.5メートル、6層からなる鶴ヶ城天守閣、その正面と向かって左側の2面をスクリーンに、各層を絵巻のようにして藤城氏の影絵の世界観を描き出した本作品、それを影で支えている「科学」とはどんなものなのか。

 上映に使われたプロジェクターは、カナダChristie社の1台1500万円、ランプだけでも100万円以上はする最新式プロジェクターだ。これを正面用に5台、側面用に5台の合計10台を使って投影を行なっており、明るさと鮮明さはともに圧巻の一言(ただし、正面一番下の層の正面側だけ、庭園内の樹木の関係で少し焦点があまい映像になる)。

 製作協力のエス・シー・アライアンス内田照久COOによれば「今年は映像の鮮明さにこだわった」という。使用しているプロジェクターそのものは、2013年のときももChristie製のものだが、1年でさらに画質や明るさが向上した新型が登場したので、そちらに切り替え、台数を減らして映像の精細さを向上させた」と説明する(プロジェクションマッピングでは明るさを強めるために、複数のプロジェクターの映像を重ね合わせる手法がよく用いられるが、投影画像の重ね合わせでは、プロジェクターの置き場所が違うことでどうしても映像の一部にブレが生じてしまう)。

og_iventmatome_003.jpgog_iventmatome_004.jpgChristieのDLPプロジェクター

 最高峰のプロジェクターに接続して映像を映し出しているのは「Tegara」社のロゴマークが張られたハイパフォーマンスPC(スペックは不明)。4台が収まったラックが2つあるが、左側は右側に何か問題が生じた時、即座に切り替わるバックアップ用だ。これらのコンピューターに、フランスETC社のOnlyview Remote Controlというソチオリンピックのオープニングなどでも使われたソフトウェアを用いて上映を行なっている。

 ラックのすぐ近くにはPhotoshopで各層の映像をレイヤー分け投影イメージ確認をすべく、MacBook Proも置かれていた。一般の家庭や業務用パソコンで映像を映し出す映像といえば、せいぜい30インチ程度のスクリーン3面くらいまでが精一杯(それでも、映像系などの特殊な仕事をしていないと、触れることがないだろう)。

 これに対して人間の大きさをはるかに超える巨大建造物全体をスクリーンにした豪華製作陣による立体的映像作品、ショップではおよそ手に入らない最高峰のPCと、最高峰のソフトウェア、そして最高峰のプロジェクターが描き出す映像スペクタクルを楽しむ機会は、残りあと20回だけ。是非とも週末には近隣の温泉と日本酒にも恵まれた会津若松に足を運んでみてほしい(なお、会津若松には、11年の歴史を持ち、PCを使った作品作りに興味がある高校生が全国から集まる「パソコン甲子園」が開催される会津大学もある)。

鶴ヶ城プロジェクションマッピング はるか 2014 「庄助の春こい絵巻」

残りの上映の日時

19日(水)/20日(木)/21日(金・祝)、22日(土)/23日(日)

18:30〜/19:15〜/20:00〜/20:45〜

公式ホームページ:http://www.fukushimasakura.jp/tsurugajo/

送迎付き宿泊プランの申し込みページ:http://rurubu.travel/theme/area/local13/13a0293/


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