スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2014」では、低価格帯のスマートフォンがトレンドの1つとなった。その市場セグメントを狙い、昨年のMWC 2013でローンチしたのがMozillaの「Firefox OS」だ。
それから1年、Firefox OS搭載端末は現在、世界15市場で実際に販売されている。今後、AndroidとiOSが独占するスマートフォン市場にどれだけ食い込めるのか? 2014年度にKDDIが予定しているFirefox OSの提供開始はどうなるのか? MWC会期中に聞いた話をまとめたい。
MozillaはMWC開幕前夜の2月23日に発表会を開き、これまでの成果とともに新しい進展を発表した。MWC 2013ではZTEが初のFirefox OSスマホ「ZTE Open」を発表、その後7月にスペインのオペレーターTelefonicaがZTE Openを発売した。それからさらに約半年がたち、現在の端末メーカーはZTE、Alcatel One、それにLGエレクトロニクスの3社に、また採用オペレーターは4社に広がった。市場も南米と東欧を中心に15カ国へと増えている。
今回のMozilla発表会では、中Huawei初のFirefox OSスマホ「Y300」が発表されたほか、ZTEからOpenの後継となる「ZTE Open II」と、ややスペックが上がった「ZTE Open C」の2機種が発表された。Alcatel Oneも最新ラインアップとして「Alcatel One Touch Fire S」「One Touch Fire C」「One Touch Fire E」の3機種を発表、さらには7インチタブレットの「One Touch Fire 7」もベールを脱いだ。なお1月の2014 International CESでパナソニックがスマートTVにFirefox OSを採用すると表明しており、タブレットでは6月にFoxconnとも提携している。
採用オペレーターは新たに英Vodafone、インドネシアTelkomsel、同Indosatの3社が加わることが発表された。すでに発売済みのTelefonicaとDeutsche Telekomは2014年にそれぞれ8カ国、4カ国に市場を拡大するとしており、今年は少なくとも合計27カ国の地図を塗りつぶすことになりそうだ。
MWCの発表で最も注目を集めたのが、中国ファブレス半導体企業Spreadtrumとの提携だ。Spreadtrumは、Firefox OSを利用し、最低25ドルで発売可能なターンキーソリューション(企業が導入後にすぐ利用開始できるシステム一式)を製造する。すでにソフトウェア、ハードウェアが製品として完成した状態なので、端末メーカーはこれを利用して迅速に安価なFirefox OSを自社ブランドで市場投入できるという。
MozillaのエバンジェリストTristan Nitot氏は、「Apple(iOS)とGoogle(Android)に挑戦することはクレイジーなこと」と笑う。一方で、「成功する可能性があると信じている。なぜならビジョンが正しいからだ」と続ける。
現在の状態は、ユーザーと開発者の両方にとってよくない、とNitot氏。開発者はアプリをそれぞれのプラットフォーム向けに書き直す必要が生じており、ユーザーは端末を買い替えたらアプリを買い直す必要があるからだ。
だがAndroidのシェアが8割になった市場に、どうやってアプローチするのか。MicrosoftとNokiaが「Windows Phone」で手を組み、3番目のエコシステム構築に乗り出してから3年。Windows Phoneのシェアは一部市場でやっと10%に達するかというレベルに留まっている。Nitot氏は、オペレーター、端末メーカー、そして開発者のコミュニティで立ち上げていくというMozillaのアプローチを強調。成功の鍵を握るのは、「われわれがiOSともAndroidともWindows Phoneとも違うという点だ。Mozillaが実現したいのは、Webをプラットフォームにすること」と語る。
「モバイルはOSとその上で動くアプリの“プラットフォームゲーム”になっているが、新しいプラットフォームを作るのは非常に難しい。Mozillaが(Android、iOS、Windows Phoneに続く)第4のプラットフォームを作ろうとすれば、成功しない。だが、Webはすでに億単位の人が使っており、これがわれわれのプラットフォームだ」と説明する。現在モバイル開発者は開発したアプリを承認のためにGoogleやAppleに提出する必要があるが、「(エコシステムに参加するのに)許可を求める必要がない」とWebの魅力を語る。「テキストエディタがあればだれでもHTMLを書ける。Webは全ての人に対してオープンだ。WebアプリはFirefox OSでも動くし、Android上のFirefoxやChrome、iOSのSafariとブラウザでも動く」。
同じくHTML5をプッシュするTizenに対しては、「われわれはすでに端末を出している」と優位性を強調しつつも、「Tizenが成功して、HTML5アプリが動くスマートフォンが増えればMozillaはハッピーだ。Webの勝利はMozillaの勝利でもある」とコメントした。
だが、ユーザーはHTML5の可能性を理解しているのだろうか。またFirefoxブランドはAndroidに対抗する競争力を持っているのだろうか?
Firefox OSスマートフォンを一番乗りに投入し、積極的にプッシュしているTelefonicaのCarlos Pedraz Rodriguez氏は、「発売当初、MozillaとFirefox OSに対するユーザーの認知は低かったが、少しずつ改善している」と語る。MozillaのNitot氏は「AndroidかHTML5かなどということをユーザーは気にしていない。端末を手に取ってFacebookやTwitterなどのアプリが使えるのか、価格はいくらか、この2つを気にしてる」と述べる。
Rodriguez氏によるとFirefox OSの購入層は若者とシニア層で、「初めてスマートフォンを買うという人に売れている」とのこと。市場にもよるが、ウルグアイでは同社が販売するスマートフォンの30%を占めており、他の市場でも10%程度を占めるところも多いという。Firefox OSスマホの販売台数などの数字は公開されていないが、Nitot氏によると「アナリストの中には、50万台から75万台の間という予想が出ている」とのことだ。
Rodriguez氏は、いま一番必要と感じているのは「端末の機種数。顧客に紹介するバラエティが少ないのが最大の障害」と明かす。だが、機種のバラエティは少しずつ増えていきそうだ。Nitot氏は今後の計画について、「ローエンドとハイエンドの両方に拡大していく」と述べた。Mozillaでアジアのオペレーション担当社長でモバイルデバイス担当シニアバイスプレジデントを務めるLi Gong氏は、「2014年後半にハイエンドからミッドレンジの端末が登場する」と明言した。ハイエンドモデルはスペック、外観ともに高度化し、より洗練された端末になるという。
ミッドレンジ、その先のハイエンドへの拡大に向けて、MozillaとしてはOSの完成度を高めていく。現在12週間おきにバージョンアップをリリースしており、途上国でのニーズが高いというデュアルSIMのサポート、NFC対応、MMS対応などを今後加えていくとNitot氏はいう。
日本市場については、KDDIが2014年度中に端末を発表する計画が発表されている。23日の発表会に参加していたKDDIの商品統括本部 商品企画部 商品戦略3グループリーダーの上月勝博氏が、1月に田中孝司社長が述べた「ギーク層をターゲットに」というコメントについて次のように説明した。
「ハードウェアのスペックだけではなく、使い方、Webのオープン性を含めて、新しいことができるのではと期待している方々を“ギーク”とみており、そこに応える製品を出したい」。上月氏によると、セキュリティやローカライズなどの作業を進めており、成果をコミュニティに戻す貢献にもつながっているとのことだ。
23日の発表会では、日本からは楽天が「楽天ゲートウェイ」を、リクルートがカメラアプリの「Cameran」をFirefox OS向けに開発したことも発表された。アプリストアの「Firefox Marketplace」で提供され、日本と世界の両方で展開していく。
楽天ゲートウェイは楽天のさまざまなサービスにアクセスできるアプリで、Firefox OS版はWeb版を移植したもの。同社モバイル戦略課モバイルビジネス開発チームのグループマネージャー 加藤雄一氏は「作り手からみて面白い、効率的に作ることができる」とHTML5開発を評価した。開発生産性が高いことに加えて、Web開発者がたくさんいることもネイティブアプリ開発と比べた魅力といい、性能についてもそれほど問題ではなくサーバーとの連携などの調整によりカバーできるとの見解を示した。
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