営業先に行ったはいいが、顧客のニーズを理解しきれず最適な提案ができなかった——こんな失敗は営業部員なら誰もが経験があるだろう。とりわけ、顧客のニーズに合わせてカスタマイズするタイプの商品/サービスの場合、その分野に精通していない新任の営業部員が最適な提案をするのは極めて難しい。
この問題を解消するため、タブレット端末を使って営業スタイルそのものを変えてしまったのがリコージャパン栃木支社の取り組みだ。同社はiPadとFileMakerで作成した販促ツールの活用で、顧客企業のニーズの確認から最適な製品の提供までをスムーズに行えるようになったという。リコージャパン栃木支社で建設業向けITシステムの営業を担当しているチームに、取り組みの背景と成果を聞いた。
原価管理システムは建設業の心臓 「業界に精通していないと提案できない」
リコージャパンといえばプリンタ・複合機などでよく知られるが、全国277カ所(2013年4月1日時点)の拠点でオフィス向けITサービスも展開している。そんな同社が扱う商品の1つが建設業向け原価管理システム「どっと原価」だ。同製品は基本機能を中心に20以上のオプションメニューで構成され、企業ごとのニーズに応じて柔軟にシステムを構築できるようになっている。
「建設業向けシステムと一口に言っても、企業によって求める機能や予算規模は異なる。そこでどっと原価では、機能の多くをオプションとして用意することで、顧客のニーズや予算に合わせて柔軟にシステムを構成できるようにしている」と、どっと原価の開発元である建設ドットウェブの江尻和典さん(営業部 東京支店 支店長)は話す。
一方リコージャパン栃木支社では、そうしたカスタマイズ性の高い製品を顧客に提案する上で課題も感じていたという。「どっと原価は建設業の要となる『原価管理』などの機能を持つ製品だが、当支社の全ての営業部員が建設業の仕組みを熟知しているわけではない。そのため営業部員によっては顧客がどのような機能を必要としているか理解しきれず、効率的に提案できない課題があった」と、リコージャパン栃木支社の山崎孝志さん(ソリューション営業部 ソリューション1グループ リーダー)は振り返る。
そこで建設ドットウェブは、FileMaker ProとFileMaker Goを使ってiPad向け販売促進ツール「原価羅針盤」を用意。リコージャパン栃木支社の営業担当者が同ツールを使うことで、建設業に精通していなくても顧客のニーズに応じたシステムを提案できるようにした。
原価羅針盤の仕組みはこうだ。まず「貴社の問題点は何ですか?」といった質問画面からスタートし、顧客企業が求める要件をアンケート形式でタッチ入力していく。3ページほどの選択式アンケートに答えれば、必要なシステム構成と見積もり額が自動で算出される——といった具合だ。
見積もり書はその場でPDFとして発行することもできるが、リコージャパン栃木支社では原価羅針盤で得た顧客ニーズや予算を建設ドットウェブにメールで共有し、オプション構成を調整したうえで顧客に提案する方式を採っている。こうすることで顧客の予算と見積もり額にギャップが生まれることを抑え、どっと原価の受注率アップにつなげているという。
リコージャパンは2012年9月までに全営業所でのiPad導入を完了していたことから、栃木支社での原価羅針盤の導入もスムーズに進んだという。「原価羅針盤のおかげで、営業部員が最初から全ての知識を持っていなくても、顧客のニーズに応じてどっと原価のさまざまな機能を提案できるようになった」と山崎さんは話す。
現場のノウハウを集約した営業支援ツールが強みに
建設ドットウェブは、原価羅針盤の構築に当たって「簡単にカスタムデータベースが作れて、ユーザーフレンドリーな使い勝手を実現できること」を重視し、FileMakerを採用したという。
「当社はパートナー経由の製品提供に力を入れており、以前からどっと原価の販売マニュアルなどを紙で用意してきた。今回、そうした過去の試行錯誤で得られたノウハウをFileMakerに集約することで、使いやすい営業支援ツールを作ることができたと思う」と江尻さんは話す。
こうした使い勝手のよさは、リコージャパン栃木支社の営業現場でも感じられているようだ。リコージャパン栃木支社の大塚節子さん(ソリューション営業部 ソリューション販売1グループ チーフ)は「従来は、新任の営業部員が顧客のニーズをとらえきれず、提案すること自体に萎縮してしまうケースもあった。原価羅針盤では顧客とiPadの画面を共有しながら一緒に機能を選んでいけるため、営業部員が自信を持って提案できるようになった」と話す。
一方、リコージャパン栃木支社は営業支援ツールの活用と並行し、人材育成にも引き続き力を入れていく方針だ。「どんなに便利なツールがあっても、顧客のことを熟知している営業とそうでない営業では受け答えのきめ細やかさなどに差が出る。社員教育などを通じ、顧客に対して一歩踏み出せる営業部員を育てていきたい」(山崎さん)。同社は今後も営業力と優れた提案ツールを武器に、顧客ニーズにマッチした提案活動を目指していく。
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