NHK放送技術研究所の一般公開が5月30日から6月2日まで行われた。今年は2014年の試験放送開始に向けて開発が進められているスーパーハイビジョンと並び、日本型スマートテレビの本命と目される「Hybridcast」(ハイブリッドキャスト)も大きな注目を集めた。前回に続き、AV評論家・麻倉怜士氏に解説してもらおう。
——今年もHybridcastは技研1階ロビーの一番目立つ場所に展示されていました
麻倉氏:Hybridcastの展示は今年で3年目になりますが、年内にNHKが試験サービスを始めるとあって、かなり具体的なサービスイメージを掴むことができました。これまで、放送と通信の融合をうたってはいても、本当に必要なのか分からないアプリやサービスが多かったと思いますが、Hybridcastはアイデア次第でかなり面白いことができるようだということが今回の展示で分かりました。諸外国ではネット動画を視聴できるテレビが“スマートテレビ”といいますが、日本ではさらに1段掘り下げ、放送と通信を連携させて実用的かつ面白いコンテンツを作ろうとしています。それこそが日本的スマートテレビ。NHKの発想は的を射ていたのではないでしょうか。
麻倉氏:今年の3月29日にIPTVフォーラムが「ハイブリッドキャスト技術仕様 ver.1.0」を公開しました。これには「放送通信連携システム仕様 ver.1.0」「HTML5ブラウザ仕様 ver.1.0」「事業者間メタデータ運用規定 ver.1.0」という3つの仕様が含まれ、対応したテレビと放送番組が登場する環境が整ったことになります。技研公開の開幕(内覧日)に合わせ、東芝が初のHybridcast対応4Kテレビ「Z8Xシリーズ」をリリースしています。
さて、Hybridcastが従来のスマートテレビと大きく異なるのは、放送番組の“進行”と連動した通信サービスが利用できること。HTML5によりリッチで快適なユーザーインタフェースを実現できること。そして、既にネット上にあるVoDなども活用し、従来より使い勝手の良い環境を作り出せることでしょう。
具体例を挙げましょう。まずNHKが展示していたEPG「アクティブ番組表」が面白かったです。この番組表には、放送波で取得できる今後1週間の番組表に加え、インターネットから持ってきた過去30日分の番組表が同居しています。「過去番組表」というと“全録”レコーダーを思い出しますが、実は似たようなことができます。もちろんレコーダーでは録画した番組以外は再生できませんが、この番組表では「NHKオンデマンド」にアップされている番組に目印が付いていて、そのまま再生できます。今までは、専用のメニューやボタンからVoDを起動して、メニューから探さなければなりませんでしたが、これは使い勝手が良いと思います。
麻倉氏:また、リモコンの「dボタン」を押すと画面にオーバーレイ表示されるメニューには、ユーザーが好みで天気予報やニュースヘッドライン、各種ウィジェットを並べることができます。つまり操作性としてはデータ放送の延長です。ニュースも従来のデータ放送では非常に限られた文字数になっていましたが、今回の展示ではWebにある「NHKオンライン」のデータをそのまま持ってくる仕組みだそうです。このため表示は早く、情報も多い。しかも制作側も作業効率が高められるメリットがあります。
一方、驚いたのはテレビ画面にHybridcastの情報をオーバーレイしていることです。これは、「テレビ画面を汚してはならない」とするテレビ制作文化からすると画期的なことではないでしょうか。とはいえ、実際には映像はその分、隠れてしまうわけですから、映像をみている分には実に見にくいインタフェースです。16:9ではなく21:9にして、16:9以外の部分を情報ディスプレイとして使うというアイデアはないのでしょうか。それはタブレットでやればよいといっても、受け身のリーンバック視聴に、前向きのリーン・フォワードのタブレットなどが絶対に必要とあれば、ハイブリッドキャストの将来も曇りがちですね。オーバーレイ問題もなんとかうまく対応してほしいです。
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