「グローバル化」とひと口に言っても企業ごと、部門ごとにその意味合いはさまざまだが、国内市場が成熟化する中、成長の牽引役を海外市場に求める日本企業は多い。それに伴い、情報システム部門を舵取りするCIOには、海外現地法人のガバナンスや買収企業の統合作業など、これまでになかった難問がのし掛かる。
このインタビュー連載では、企業のデジタル化を牽引し、その競争力向上に取り組むCIOに話を聞いていく。
1980年代、中曽根政権の「民活」政策によって日本電信電話公社や日本国有鉄道が相次いで分割民営化されたが、日本専売公社から事業を引き継いだ日本たばこ産業(コミュニケーションネーム:JT)もそのひとつだ。政府が3分の1の株式を保有する同社だが、積極的に企業や事業を買収、NTTやJRとともに日本を代表する企業グループとして成長を続けている。
中核であるたばこ事業以外にも医薬事業や飲料事業、加工食品事業といった事業を展開しているが、中でも注目すべきは、やはり海外の大手たばこ企業の買収だろう。1999年に米国のR. J. Rナビスコから米国外のたばこ事業を買収、2007年には英国Gallaherの大型買収を成功させ、世界最大のPhilip Morris International、2位につけるBritish American Tobaccoを追撃する体制を整えた。2012年度の売上構成は、海外たばこ事業が全体の約47.6%、営業利益では約54.3%を占めており、JTグループが中期経営計画で特に重視している利益成長を牽引している。
日本企業のグローバル化においては、しばしば海外現地法人のマネジメントが課題視されているが、グループ利益の半分以上を稼ぎ、利益成長の牽引役でもある海外たばこ事業には、それにふさわしい経営資源の配分と権限委譲が行われているという。
「情報システムについても、海外のグループ企業ではSAPが導入されるなど、大体同じようなものを使い、標準化が進んでいる。一方、国内のグループ企業では個別にあつらえた情報システムがばらばらにあり、国内と海外が2極化している状況だが、段階的に海外に合わせていく計画だ」と話すのはJTのIT部を統括する引地久之部長。
引地氏は、Compaqの日本法人で情報システム部門長としてERPを導入、Hewlett-Packardによる買収後も部門長としてITの統合を推進した経験を持つ。医薬事業や飲料事業、加工食品事業を行う国内の各グループ企業にも、会計を中心とするバックオフィスにはSAPが導入されているが、さらに踏み込んで製造系においても更新時には可能な限りパッケージに移行させたい考えだ。
「バックオフィス業務の標準化・シェアードサービス化や、個別開発された業務システムのパッケージ移行などは、既にロードマップに基づいて多年にわたって着実に取り組んできている。その意味ではグローバルモデルを安定させていく時期に入ったといえる」(引地氏)
しかし、一昨年の東日本大震災は、何が起こるか分からない不確実さと危うさを日本企業に教訓として残した。JTでも複数の工場が被災し、一時的な措置にせよ、全銘柄の出荷停止に追い込まれた。
「MILD SEVENの名称を“MEVIUS”(メビウス)に刷新し、グローバルNo.1プレミアムブランドを目指す以上、柔軟かつ堅牢なサプライチェーンが欠かせないだろう。自動車と同じようにどこで作ってもいい。必要としている市場に良い品質のたばこを最適な場所で生産する、というグローバル全体最適をITが支えなければならないし、そのスピードを高めていかなければならない」と引地氏は危機感を抱く。
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