独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、世界で初めて8K非圧縮映像の長距離IP伝送に成功した。2月5日に行われた記者会見では、実際に大阪ー東京間で8K/60pや4K/60pの映像をやり取りするデモンストレーションを披露した。
今回の実験では、東京ー大阪間にNTTコミュニケージョンズの実験用100Gbps回線を利用して8Kおよび4Kの非圧縮データを同時並列で伝送する仕組みを構築した。「100Gbpsというと、Blu-ray Discの内容を数秒で伝送できるスピード。そのネットワークを利用した長距離の8K映像非圧縮IP伝送は、世界初の試みだ」(NICT、テストベッド研究開発推進センターの河合室長)。また神奈川工科大学などと共同で、「さっぽろ雪まつり」の会場から国内の複数拠点に対し、HD(2K)/4K/8Kの高解像度映像をIPネットワークで伝送する実験も行った。
4K/8K映像の伝送実験は地上波や衛星放送、CATVなどでも行われているが、これらは完成済みの映像コンテンツを家庭に届けるための手法を確立するためのもので、圧縮率の高いHEVC(H.265)のような符号化技術も利用できる。しかし、そのコンテンツを制作するためには、例えば放送局の系列局間やポストプロダクションといった拠点をつなぎ、高品質の素材をやり取りしなければならない。
説明に立った神奈川工科大学の丸山充教授は、広く一般でも使われるようになったクラウドを取り上げ、8Kのような広帯域映像ストリームデータをクラウドで扱える環境を目指すとした。「QoS保証のためのリソース管理など、まだまだ課題は多い。しかし可能になれば、あらゆる場所で(高解像度映像の)編集作業などが行えるようになる」(同氏)。
デモンストレーションでは、会場となった東京・大手町のKDDIビルに神奈川工科大学が製作したという8Kディスプレイを設置。大阪・うめきたの拠点に置かれたIPサーバから「さっぽろ雪まつり」の8K/60p映像を伝送・表示してみせた。その横にはトラフィックモニターを設置し、ネットワークのスループットを可視化する。
8K撮影にはアストロデザインのデュアルグリーン方式カメラを使用。800万画素CCD4枚(R、G1、G2、B)を使って3300万画素相当の映像を得るものだ(単板式カメラにも対応可能)。動画の生データは24Gbpsほどになり、これにオーバーヘッド(IP化や誤り訂正に関わる間接的な負荷)を含めて伝送には28Gbpsが必要だという。ただし、非圧縮の8K/60pを1台でカバーできるIPサーバやゲートウェイは存在しないため、例えば8Kの映像なら16本のストリームデータに分割して伝送する“マルチレーンストリーム伝送”の仕組みを構築している。
受信側では複数のストリームをリアルタイムにつなぎ合わせ、高解像度映像に再構築するが、当然、各ストリームが完全に同期しないと映像にならない。「チャンネル間の周波数、フレーム同期が重要になる」(丸山氏)という。
NICTでは、2011年から研究開発用のテストベッドネットワーク「JGN-X」を運用しており、4月には回線を100Gbps化する計画だ。今回の実験結果をもとに、今後はJGN-X上で利用者のニーズに応じて複数の仮想回線(SDN)を構築する動的オンデマンドネットワークの実験などを加速する。
なお2月7日には、大阪で実証実験の一般公開を行う予定だ。場所はグランフロント大阪の北館ナレッジキャピタル2階、ザ・ラボ内アクティブスタジオ(最寄り駅はJR大阪駅)。公開時間は、17時からとなっている。
関連キーワード
NICT(情報通信研究機構) | 祭り | スーパーハイビジョン | 研究機関 | 運用管理 | 実証実験 | NTTアイティ | PFU | プロジェクションマッピング | QoS | 世界初
関連記事
- NHK、地上波での8K“長距離”伝送実験に成功
NHKが、地上波放送を想定した8Kスーパーハイビジョンの長距離伝送実験に成功した。27キロメートル離れた地点でも8K信号を良好に受信できた。 - NexTV-F、4K試験放送の準備は「順調」
次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)が2014年度に開始予定の4K衛星放送に向けて中間報告。実際の衛星放送環境を模したデモンストレーションを公開した。 - 4K/8Kは“成長戦略”、オールジャパンの「次世代放送推進フォーラム」が始動
放送・通信など21社による「次世代放送推進フォーラム」(NexTV-F)が設立された。発表会では、4K/8Kの環境整備をアグレッシブに進め、新しい放送サービスの提供と同時に国内産業の国際競争力強化を狙う。 - スーパーハイビジョンは2016年に間に合うのか? NHK技研公開
恒例の「技研公開2013」が東京・世田谷のNHK放送技術研究所で始まった。今回は2016年に実用化試験放送が早まったスーパーハイビジョンについて、AV評論家・麻倉怜士氏に解説してもらおう。 - CATVだって大丈夫! KDDIとJ:COMが既存インフラを活用した2K/4K/8K同時送信に成功
KDDI、KDDI研究所、ジュピターテレコムの3社は、フルHD、4K、8Kの映像を同時に伝送できる映像圧縮符号化方式を開発し、既存CATV網を利用する伝送実験に成功。デモを披露した。 - テレビ放送帯のホワイトスペースを用いた長距離ブロードバンド通信、NICTが実験に成功
独立行政法人情報通信研究機構と日立国際電気が、テレビ放送帯のホワイトスペースを用いた長距離ブロードバンド通信の実験に成功した。災害時などにおける通信回線の支援システムとしても期待される。 - テレビ放送帯の“ホワイトスペース”を活用、NICTがタブレット端末を試作
情報通信研究機構(NICT)は、テレビ放送帯で通信を行えるタブレット端末を開発した。ホワイトスペース活用に向けて伝搬特性評価などを行う。
関連リンク
Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.