日本電子出版協会(JEPA)は12月20日、「第7回 JEPA電子出版アワード」の大賞選考会と表彰式の後、同アワードの選考委員を務めた電子出版関連メディアの方々によるパネルディスカッション「今年の電子出版トレンド」を実施した。
パネラーは、hon.jp代表取締役 落合早苗氏、ダ・ヴィンチ電子ナビ局長 後藤久志氏、OnDeck副編集長 福浦一広氏、ITmedia eBook USER 編集長 西尾泰三氏。コーディネーターは、JEPA理事で選考副委員長の井芹昌信氏。
電子書籍のデータ分析からみた2013年
落合氏は、hon.jpが手掛ける電子書店横断型検索サービスのデータベースに登録されている電子書籍のデータから、2013年のトレンドを紹介した。
落合氏によると、現在 hon.jp に登録されている電子書籍、電子雑誌、電子書籍アプリの総数は、約60万点。このうち、ISBNが付与された(つまり紙でも発行されている)ものは約11万5000点。この増加ペースであれば、2014年のいまごろは100万点を突破するとの予測だ。
2013年に顕著に増加したコンテンツは、マイクロコンテンツ、完全版・豪華版・セット版、セルフパブリッシング。フィーチャーフォンで配信されていた1話1巻形式のコンテンツが、完全版として再配信されているケースが約1万点。セルフパブリッシングは約3万点ほど増えているという。
落合氏は、データベースに登録されているコンテンツがどういった価格帯で販売されているかも紹介。それによると、平均単価が562円、最安値(無料を除く)は10円、最高値は8万円(手塚治虫作品400巻セット)、最多価格帯は400円から500円だという。7月の調査時点では、平均単価573円、最安値10円、最高値2万5200円、最多価格帯は100円未満で、数カ月で最多価格帯が上振れしているほか、100円未満のコンテンツが5.6%に急減しているという。
落合氏は、2013年を象徴するキーワードは、「O2O (Online to Offline)」「取次再編」「著作権」だという。
O2Oは、三省堂の店頭でBookLive!の電子書籍が購入できる「デジ本」や、トーハンの「c-shelf」、紙と電子のパッケージ販売である「新装版 沈黙の艦隊」や、米Amazon.comで始まった紙と電子のバンドル販売「Kindle Matchbook」など、オンラインとオフラインが連動する動きを指す。
取次再編は、ビットウェイが出版デジタル機構に買収され、電子取次はクリーク・アンド・リバー、ブックリスタ、モバイルブック・ジェーピー、メディアドゥの5社体制になったこと。また、著作権については、スキャン代行業が違法であるした地裁判決や、海賊版対策を目的とした電子出版権創設と著作権法改正に向けての動きなどだ。
また、来年に向けて注視しておきたいのは「LINEマンガ」だとした。
スマートフォンの爆発的普及とソーシャル系プレイヤーの参入
ダ・ヴィンチ電子ナビの後藤久志氏は、今年の電子出版トレンドとして、スマートフォンの爆発的普及とタブレットの着実な普及、専用端末の大々的プロモーション、LINE・Ameba・DeNAなどのソーシャル系プレーヤーの参入、各電子書店のラインアップが横並びになってきたこと、セルフパブリッシングが伸びてきていることなどを挙げた。日本はフィーチャーフォンが先行したため、米国のような専用端末先行での普及とトレンドが異なると指摘する。
また、値下げキャンペーンは今後も継続して行われるのか、値段は下げずに特典を付ける方向へ進むのかを注視したいと話す。米国の電子書籍市場は急拡大期から安定成長期に入り、激しい値下げ競争から脱却して価格水準が上がりつつあるという。落合氏が話した価格の変化と合わせて注目したい流れといえる。
一方で、「Crunchyroll」が日本の漫画をほぼ同時に米国などで配信したり、DeNAの「マンガボックス」には当初から言語切替ボタンが付いていたりと、海外の漫画ファンが読みたくても読めなかったがために海賊版が横行していた状況も変わりつつあるという。
KADOKAWAの取り組みが目立った1年
ITmedia eBook USERの西尾泰三氏は、出版社と電子書店という両方の立ち位置を持つKADOKAWAの取り組みが非常に目立ったと所感を述べた。例えば、KADOKAWAとして新たな一歩を踏み出した10月、50%オフの大規模なキャンペーンで電子書籍の価格弾力性を持たせる先鞭をつけたこと、EPUBの制作仕様書を一般公開したこと、青空文庫の取り扱い開始時に「本の未来基金」にポイントを寄付できる仕組みを用意したことなどを挙げた。
文字モノの波はひと通り終わり、来年は「電子雑誌」や「電子図書館」の領域が徐々に動き出すと西尾氏は予想する。また、「Dモーニング」や「ジャンプLIVE」のようなアプリにみられる編集部の取り組みにも可能性を感じると語った。
OnDeck Weekly読者アンケートから見る現在の状況
OnDeck 福浦一広氏は、OnDeck Weekly購読者を対象とした「電子書籍ストア利用動向調査」について説明。一部のアーリー・アダプターだけを対象としたアンケートなので、一般化はできないと前置きしつつ、「Kindleストア利用者が半数越え」に載っていない情報として、他ストアとの併用状況を紹介した。
Kindleストアのユーザーは、併用ストアとして、iBooks Store(25.3%)、紀伊國屋書店Kinoppy(14.7%)、楽天Kobo(16.3%)、Reader Store(12.5%)を利用。一方、紀伊國屋書店Kinoppyを利用しているユーザーの60.5%が、楽天Koboを利用しているユーザーの76.1%がKindleストアを併用しているという。これらの詳細は、Kindleストアや楽天Koboで販売中の「電子書籍ストア利用動向調査」を読んでほしいと締めくくった。
組織から個人への革命が進行している
JEPA理事の井芹昌信氏は、パネラー全員が語った共通のキーワードは「セルフパブリッシング」だと指摘。米国では10人いれば9人が「本を書きたい」と言うが、日本人は奥ゆかしいので、そうした状況にはならないかも? とパネラーに疑問を投げかけた。
これに対し落合氏は、2006年のベストセラーは10点中7点が「ケータイ小説」だった点や、ブログの普及率などを挙げ、今後はパッケージ化して有償販売することに壁を感じない人がさらに増えてくるだろうと予想。
西尾氏は、セルフパブリッシングで話題になった人がまだ限定的であることを指摘、現時点では制作からプロモーションまで一人で何でもできてしまう人だけが成功している状態だと語った。電子出版アワードの大賞を受賞した高瀬氏の「でんでんコンバーター」のように、電子出版をより簡便化するサービスが今後はもっと出てくるだろうが、現時点ではハードルがいくつもある状態だと指摘する。
また、後藤氏は、日本の中でもかなりの人が高い作家性を持っていると語る。コミックマーケットの活況や、pixivで人気が出た方がゲームのイラストレータとして採用されたり、ライトノベルの新人賞にも数万人が挑戦するなどの事例を挙げた。
福浦氏は、電子出版で成功している個人はいても、成功している出版社が見当たらない点を指摘。出版社の存在価値がこのままではなくなってしまうので、セルフパブリッシングでの成功事例を出版社が拾い上げ紙の商業出版にしていくのはあるべき姿なのではないかと言う。
これらを受けた井芹氏は、インターネットのメディアパワーは、組織から個人への革命を進行させていると語る。パソコンは登場して30年でほぼコモディティ化しているが、インターネットは登場して20年経つがまだコモディティ化しているとは言えない。いまなお大きな変化を起こしつつあり、出版産業でもこの流れと関連する電子化のトレンドが当分続くだろうと締めくくった。
著者プロフィール:鷹野 凌
フリーライター。「日本独立作家同盟」呼びかけ人。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチ電子ナビ、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。ブログ「見て歩く者」で、電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆。自己出版で『これもうきっとGoogle+ガイドブック』を1〜3巻まで配信中。
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