11月上旬、米国のFOSI(Family Online Safety Institute)という非営利団体が、ワシントンD.C.でカンファレンスを開催した。FOSIは通信業界や政府、非営利団体職員らで構成される、子供たちと家族のオンライン上の安全性を確保するために働く団体である。
カンファレンスでは、欧州とオーストラリアの子供たちのネット利用と安全性について、プレゼンテーションが行なわれた。このうち欧州の資料(PDF)はかなり内容が興味深いので、それを参考に海外と日本の子供のネット利用状況の違いを考えてみる。
欧州での調査は、デンマーク、イタリア、ルーマニア、英国の9歳から16歳まで、およそ2000人を対象に行なわれている。ネットワーク機器の所有と、毎日使うデバイスの調査では、13歳以上でスマートフォンが高い比率を示している。所有が66%という数字は、日本に迫る数字だ。
ちなみに日本の普及率は、今年6月に高校生を対象に総務省が行なった調査(PDF)によれば、84%となっている。
そのほか欧州では、ノートPCの所有率が13歳〜16歳で57%、利用率も59%と結構高い。日本で今年6月に行なわれた総務省主導のILAS調査によれば、ノートPCの所有が2012年から2013年の間で49%から44%に減少中で、利用率は2013年で7%、デスクトップPCと合わせても11%しかなく、完全にスマートフォン偏重の傾向がある。
続いてスマートフォンをどこで使うか、という調査では、自分の部屋、もしくは家の中という解答が高い。他の端末の利用状況を見ても、ネットアクセスそのものがほぼ家庭内に限られている。
スマートフォンによって、多少は屋外でのアクセスも増えているが、ケータイからの乗り換えとして外で使うのではなく、家庭内でPCからの乗り換えという形で移行しているのが分かる。
ネットでの活動
子供たちはネットで何をしているのか、という調査では、2010年からの変化を見る事ができる。近年増加しているのは、「動画を見る」と「SNS利用」「写真やビデオ、音楽の共有」だ。写真やビデオの共有は、そもそもSNS利用と不可分であろうと思われるが、増加率はより高くなっている。
SNSの利用とメディア共有は、年齢別や国別に統計が出ている。SNS利用で男女差があまりないところは、日本とは事情が違う。またメディア共有のプラットフォームは、男の子はYouTubeの圧勝、女の子はInstagramが高いなど、利用形態がかなり異なっていることが分かる。
日本においても、最近「ツイキャス」が高校生の間でブレイクし、一日中全公開状態で突発的な生放送が行なわれている。一方短編動画投稿SNS「Vine」では、女子高生投稿動画が爆発的な人気を呼ぶといった現象も起こっている。
上記の例のように、写真や動画の共有をコミュニケーションの一部として利用するか、作品として投稿するのかで、そのリスクをどのぐらい見積もるか、解釈がかなり異なる。
おそらく欧州では、子供が自分でライブ配信を行ない、不特定多数とコミュニケーションするという活動は見られないと思われる。なぜならば、利用がほぼ家庭内であること、アクセスするプラットフォームにUstreamやGoogleハングアウト オンエアなどのネット放送メディアが上げられていないからだ。
YouTube LiveはYouTubeに入るのではないかという指摘もあるだろうが、これは最近までYouTubeパートナーなど一部ユーザーしか利用できなかったため、子供も含め、だれでも利用できるメディアとは言えない。
子供のSNS利用の次に来るテーマとして、メディア共有をどのように考えるか。まだ具体的な議論はないが、問題が起こるまで放置し、起こったとたんに規制という流れはそろそろ打ち切らなければならない。まずはポジティブなメディア共有の形やメリットをどのように子供に伝えられるか、その良いモデルを探して伸ばすべきであろう。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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