皆さんは、「WhiteMagicディスプレイ」という液晶ディスプレイをご存知だろうか。もともと、ソニーが開発し、2011年からデジタルカメラ向けに量産を開始した液晶で、現在はソニーも出資するジャパンディスプレイが開発・製造を行っている。
WhiteMagic最大の特徴は、色の三原色である赤・緑・青、いわゆる“RGB”で構成する画素に、ホワイトの画素を追加した“RGBW”液晶になっていることだ。その結果、バックライト電力を増やすことなくディスプレイ輝度を向上できるので、屋外での視認性も向上し、なおかつ電力消費量も削減できる。WhiteMagicを採用したスマートフォンは、2012年に登場。国内向けスマートフォンとしては、富士通が「らくらくスマートフォン2 F-08E」で初めて採用している。
そんなWhiteMagicディスプレイに5インチフルHD(1080×1920ピクセル)仕様が追加されたのが2013年5月。その初採用商品が、10月にNTTドコモから発売された「ARROWS NX F-01F」だ。初採用ということもあり、開発の現場ではさまざまなドラマや苦労があったに違いない。そこで、ARROWS NX F-01Fで主にディスプレイ周辺回路設計を担当した富士通のモバイルフォン事業本部 ハードウェア開発センター 第三技術部の中島英樹氏と尾崎太一氏に話を聞いた。
高透過率の白画素を追加
—— F-01FでWhiteMagicディスプレイを採用するに至った経緯を教えてください。
中島氏 スマートフォンユーザーから挙げられる、一番解決してほしい課題が「電池持ち」です。消費電力を少なくするためにWhiteMagicディスプレイを採用しました。また、「屋外で使用するときに画面が見にくい」という声も挙がっていて、屋外での視認性を向上させることも求められました。この「電池持ち」と「屋外での視認性向上」の両方を満たせる最適な技術が、WhiteMagicでした。
—— WhiteMagicによる省電力化は、どのような仕組みで実現しているのでしょうか。
尾崎氏 従来の液晶ディスプレイでは光の三原色である“RGB”(赤・青・緑)で画素を構成していました。それに白画素を追加することで、省電力化を図っています。
なぜ白画素を追加すると(省電力化に)良いのかというと、従来の液晶ディスプレイでは、白を表現する際にRGB全ての画素を均等に光らせていましたが、それを白画素に置き換えています。この白画素は、光の透過率が高く、同じ明るさをディスプレイで実現するのであれば、バックライトの電力を減らすことができます。これが省電力化につながっているのです。
—— 従来のディスプレイに比べて、バックライトの輝度そのものは変わっていないのでしょうか。
中島氏 はい。バックライトの明るさは従来のものと変わりません。バックライトの明るさを従来と同じままにしておけば、白画素を使うことでディスプレイは明るく光るようになります。WhiteMagicには説明したように2面性があり、明るさの必要のない室内では電力を減らすよう、屋外では従来と同じ電力でディスプレイ明るくするよう制御しています。
WhiteMagicでは初めて——フルHD化の苦労
—— 初めてフルHDのWhiteMagicディスプレイを採用したモデルということで、実装にあたって苦労した点もあると思います。
尾崎氏 WhiteMagicという技術自体は(らくらくスマートフォン2などで採用されているように)以前からあるものですが、フルHD化したことによって、装置として(スマートフォンに)組み込んだ際に、さまざまな問題が起きました。その中でも一番大きかったのは、液晶ディスプレイそのものから放出されるノイズでした。この対策が極めて重要でした。
中島氏 一般的に解像度が上がると、ノイズ自体が大きくなってしまいます。WhiteMagicではバックライトの調光だけではなく、画像に合わせた調整(白画素の置き換え処理)をしており、(通常の液晶ディスプレイよりも)さらにノイズが増えてしまうのです。
スマートフォンの場合、タッチパネルが(液晶ディスプレイの)上にあるので、ノイズがタッチパネルの操作性に影響しない程度まで抑えないといけません。しかし、いろいろな無線アンテナが(筐体に)入っていて、それらの影響もあります。全体のノイズを抑え、タッチパネル操作に影響を及ぼさないようにWhiteMagicの制御パラメータを何度も修正し、そのたびにノイズの検証をしてく地道な作業の日々を過ごしました(笑) 。
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