われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論」 連載一覧
会社の利益か、個人の利益か
「江端君、君は何も分かっていない」
先輩のIさんと久々に飲んでいた時のことです。Iさんが、このように切り出しました。彼は、私が入社3年目の時に、他の会社に転職しました。
「君は、素晴らしい技術を研究開発さえすれば、それが、会社に利益を与えて、皆が幸せになると思っているだろう?」
「えっーと、思っています」
「そもそも、君は、そこから間違っているのだ」
「どういうことですか?」
「会社の経営陣が欲しているのは、屁みたいな安い投資で、ほとんど手間がかからず、新規の設備を作る必要もかからない、そういう『技術』なのだよ」
「……はあ」
「加えて、サルでもできるくらい設備管理が簡単で、だまっていても金がガンガンたまって、もうかって笑いが止まらない。経営者が求めているのはそういう『技術』なのだ」
「私たちエンジニアは、『魔法使い』ではないのですが」
「処理速度が速いとか、情報の転送品質が良いとか、従来比2倍の改善とか、そういうことは、経営者にとっては、どうでもよいことで、問題は、いかに『楽して金をもうけることができるか』というビジョンがあるかどうかなんだ。これが一番大切。よく覚えておいてね」
このIさんの主張に対して、もう一人の先輩Mさんが反論しました。
「あくまで経営者としての視点であれば、正解だろうと思う。しかし、それはわれわれエンジニアの視点ではない」
(……ん?)
「われわれエンジニアは、経営者のビジョンに盲従して仕事してはならない。そのような考え方によっていては、真に優れた技術を開発することはできない」
(まあ、それはそうかもしれない)
「もっとも、スポンサーである経営者に対して、『楽して金をもうけることができる技術』であることを『装う』努力を怠ってはならないが、それは本質ではない」
(……?)
「われわれエンジニアが目指すのは、詰まるところ、われわれエンジニアが「やりたいこと」を「やる」ための新しい技術の開発である」
(……)
この話は両方とも「利益」の話ではあるのですが、前半のIさんの主張は「会社の利益」を優先する技術開発がエンジニアの本分であり、後半のMさんの主張は「エンジニア個人の利益」こそ大切な要素であるというものです。
どっちが正しいというわけではなく、どっちも正しいのです。われわれエンジニアは、逆方向にも回転しかねない、この2つの両輪をうまくコントロールしながら生きていく必要があるわけです。
今回は、この2つの両輪に対して、海外で仕事を行わなければならない「英語に愛されないエンジニア」が、どのように振る舞うべきかを考えていきたいと思います。
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