教育の情報化でユニークな共同研究がスタート
佐賀県教育委員会と、日本マイクロソフトをはじめ業界を越えた45社の民間企業で構成されるWindowsクラスルーム協議会が12月10日、佐賀県下の県立高校で2014年4月より生徒1人1台の学習用PCを活用した授業が開始されるのに先立ち、「教育の情報化に係る調査・研究」の契約を締結し、共同研究を開始すると発表した。
具体的には、ユーザーや端末の管理、ネットワーク環境などの「環境整備」、電子黒板や学習用PCで利用可能な「デジタル教材の開発」、教員向けに学習用PCや電子黒板、デジタル教材などの総合的な研修を行う「教員ICT研修」、学校のみならず持ち帰り学習を踏まえた「セキュリティ対策」といった4つのテーマについて2014年6月まで共同研究に取り組み、同7月をめどに成果報告書をまとめる予定だ。
佐賀県教育委員会では、電子黒板や学習用PCなどのICT利活用が教育の質および子どもたちの学力の向上につながる有効な手段と捉え、全県規模で「ICT利活用教育」に取り組んでいる。2014年4月からは県立高校全校で1人1台のWindows 8 Proを搭載した学習用PCを導入することを決め、その環境整備を進めている。
一方、2013年5月に設立されたWindowsクラスルーム協議会は、日本マイクロソフトを中心にICT関連企業や教科書会社など45社が教育関係者や学識経験者などと連携し、教育現場でのWindowsプラットフォーム展開を推進するとともに、生徒1人1台の情報端末を活用した教育環境の実現を目指す自治体・教育委員会を支援している。
今回の共同研究について、記者会見に臨んだ佐賀県教育委員会の川崎俊広教育長は「それぞれの知見を寄せ合うことで、総合的ICT教育環境の実現を図っていきたい」と力を込めた。また、Windowsクラスルーム協議会の発起人企業代表として会見に臨んだ日本マイクロソフトの織田浩義執行役パブリックセクター統括本部長も「共同研究の成果を全国の教育関係者に公開し、教育への効果的なICT活用の取り組みを全国に広げていきたい」と意気込みを語った。
教育クラウドはどこがリードすべきか
以上が今回の発表の概要だが、共同研究の内容とともに、非常に興味深かったのが「教育クラウド」の話である。
佐賀県教育委員会では、全県規模でのICT利活用教育を推進するため、2013年4月に佐賀県教育クラウド「SEI-Net」を稼働させた。
その内容は、「校務管理システム」をはじめ、学籍情報管理や出欠管理などを行う「学習管理システム」、教材コンテンツの制作・登録・配信や学習者の登録、学習の進ちょくや成績の管理などを行う「教材管理システム」からなり、これら教育に関する3つの主要な業務機能を兼ね備えたクラウドの実現は国内で初めてだとしている。
この動きで非常に興味深いのは、教育クラウドの開発・運用を「県」が行っていることである。まず気になるのは、国の方針との整合性だ。
ちなみに、教育の情報化に向けた国の最新の動きとしては、今年6月に第2次安倍内閣の新たなIT戦略として「世界最先端IT国家創造宣言」が打ち出され、2020年までをめどに「デジタル教科書・教材の導入」「電子黒板の1クラス1台の整備」「生徒1人1台の情報端末の導入」を実現することがうたわれている。
ただ、今のところ、教育クラウドについては国としての明確な方針を示していない。筆者はかねて、特に義務教育におけるクラウドの開発・運用を国や地方自治体がどのように整備していくのか、気になっていた。なぜかといえば、クラウドをどう整備していくかが、これからの教育システムのあり方に大きく影響してくると考えるからだ。端的にいえば、どこが責任(主導権)を持つか、である。
そう考えていたところ、今回の会見で佐賀県教育クラウドの話を聞くことができたので、質疑応答で教育長の川崎氏に「教育クラウドは県単位で開発・運用していくのが望ましいのか」と尋ねてみた。同氏はこう答えた。
「確かに教育クラウドをどこが進めるかというのは、さまざまな意見がある。少なくとも義務教育については国が前面に出るべきだとの意見もあれば、実際に小中学校を運営している市町がやるべきだとの意見もある。ただ、県立高校と義務教育を合わせて、最も現実的かつ合理的に進めることができるのは県だというのが私たちの見解だ。実際に佐賀県教育クラウドは、義務教育に携わる市町とも密接に連携した上で開発・運用を進めている」
ちなみに、国の方針との整合性については「国が打ち出している内容については全て順守している」とも。ただ、教育クラウドについては先述した通り、国として明確な方針を示していないので、むしろ県が前面に立ってやるべき、との強い思いが川崎氏にはあるようだ。
先ほども述べたが、この分野のクラウドをどう整備していくかは、これからの教育システムのあり方に大きく影響してくる。さらにいえば、今後の教育改革という大きな流れの中で、どのような仕組みが望ましいのかを考える必要がある。それはまさしくこの国のありようを映し出すものになるだけに、これまでにも増して大局的見地が求められるところである。
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