PC周辺機器やアクセサリのラインアップを見ていて、同じメーカーなのに明らかにターゲット層がかぶる2つの製品ラインアップがあって、不思議に思ったことはないだろうか。上位モデルと下位モデルといった明確な差があるならまだしも、機能もほぼ同等、価格帯まで同じだったりするので意味が分からない。具体的にはマウス、キーボード、メモリカードリーダー、Webカメラといった製品で、最近はUSB扇風機などもこれに該当する。
もしこれが、片方の製品は著名なデザイナーを起用しているとか、キャラクターものだとか、最低限カラーが違うというのであれば「ああ、なるほど」と理解できるが、大抵はそうではない。しかも一方が限定品や新製品といったこともなく、両方が通常製品として売られていたりする。「何か裏があるのではないか」「使ってみて初めて分かる落とし穴があるのではないか」と、勘ぐってしまいがちだ。
しかし、こうした事象はPC周辺機器やアクセサリのメーカーの性格上、起こらざるを得ない場合が大半だ。今回はこうした「同一メーカーで同等スペックの製品が存在する不思議」についてのお話。
競合他社から戦力を削ぐという考え方
同一メーカーでありながら同等スペックの製品がラインアップの中に生まれる理由はいくつかある。中でも大きいのが「売れそうであればすぐに取り扱う」という、これらメーカーの方針だ。
PC周辺機器やアクセサリのメーカーの多くは、自社でデザインを行わず、台湾などの外注先から仕入れた製品に自社のパッケージを付けて販売するスタイルが主だ。この場合、同業者に先んじてどれだけ旬な製品を仕入れられるかが勝負の分かれ目となる。見た目が新鮮であれば、数も売れるし、利益も出る。こうした観点において、自社に少しでもメリットがあると判断されれば製品化(正確には自社ブランド化)が行われ、市場に投入される。
その結果として同一セグメントの製品がダブる事態が発生するわけだが、売れ行きが鈍いほうを追って廃盤にすればよいだけの話なので、倉庫内の在庫をどうするかといった問題は別途考慮しなくてはいけないにせよ、取り扱いを始める時点ではセグメントの重複はあまり考慮されない。自社開発のメーカーと異なり、ある決まったロードマップに則ってイチから開発しているわけではないため、こうしたケースは頻繁に起こりうる。
これはスポーツ選手のトレードなどにも言えることだが、自社の戦力になるかどうかよりも、競合他社と契約させない(自社の敵にならないようにする)ためにも、多少のデメリットには目をつむって契約する傾向がある。台湾などの外注先は、打診した先がその製品を取り扱ってくれないことが分かると、すぐに競合他社に売り込もうとする。あまり渋っていては、提案された製品が競合他社の製品となって自社の前に立ちふさがることにもなりかねないわけだ。
それゆえ、エクスクルーシブ(独占的)な契約を結び、競合他社に流れないようにするというのは、考え方としては正しい。つまり飼い殺しにするわけだ。エクスクルーシブな契約を結んだ時点で「最低6カ月間、月間何千個は必ず買い取る」といった条件が追加されることがほとんどなので、文字通りの飼い殺しというのは難しいが、最終的に契約が終了して競合他社から発売される頃には、旬なタイミングは過ぎており、目的は達せられる。競合他社から戦力を削ぐことは、こうしたメーカーにとって重要なミッションなのだ。
2つのラインアップを望む営業マン、望まない購買部門
さて、同一セグメントの製品がダブった場合も売れなかったほうを廃盤にすればよいと書いたが、現実的にはそう簡単にいかない。いざ廃盤にしようと社内に告知をしたところ、特定の取引先の定番製品に選ばれているため廃盤にできないことが分かり、結果として2つのラインアップを保持せざるを得ないケースが発生したりする。
特にカタログ通販系は「カタログ有効期限」の間は製品を廃盤にできないというペナルティ付きの取引条項があるため、こうした事態を把握せずに製品の改廃を行おうとすると、往々にしてトラブルになる。社内でいったん廃盤の告知をして店頭から在庫を引き揚げたにもかかわらず、特定の取引先のためだけに存続せざるを得なくなったりするわけだ。
メーカーとしてはホームページやパンフレット上で一方の製品に「限定」や「廃盤」と書いて終息に向かっていることを示唆し、新製品に興味を向けさせたいところだが、カタログ通販系の会社はこれにすら目くじらを立てる。「定番化しておきながら限定とは何事か」「顧客に顔向けできない」という理屈だ。結果として、デザインが違うだけで、スペックはほぼ同等、どちらも限定や廃盤ではなく現行品という製品が並び立つ事態が起こりうる。
もっともこのことは、販売店に売り込む立場にいる営業マンにとってはかえって都合がよい。店頭に製品を陳列する際、同じ製品を2つ並べるのはNGだが、違う製品を並べるならOKなので、少しでも売り場の面積(面)を取るのに、むしろ有利になるからだ。カラーバリエーションで面をまとめて取る作戦と同じだ。最初に持ち込んだ製品が売れなかった場合でも「ではこちらはどうですか?」とリトライが可能になるし、一方は定番として売り、もう一方は特価商材として競合他社つぶしに活用するという方法もある。
他方、2つのラインアップが並び立つのをなるべく避けたいのは、購買部門や倉庫だ。ラインアップが2倍になれば単純に在庫金額も2倍になり、倉庫のスペースも2倍必要になる。したがって、増えたラインアップをそのままにしたい営業側と、一方に集約したい購買側とが、社内で攻防を繰り広げることになるのだ。
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