「世間って、女性の年齢に対する偏見に満ちてますよね」。大阪府に住む主婦のるなツーさんは、こう言って朗らかに笑う。
主婦業の傍ら漫画を描き、同人作家を経てメジャーデビューした。30歳で描き始め、ネットと同人誌で腕を磨き、39歳で商業誌デビュー。41歳の今年11月末、初めての単行本「女子のてにをは」が、小学館から発売された。
帯には大きな文字でこうある。「30歳で絵を描き始めた大阪の主婦が41歳にして単行本デビュー!!!」。小学館のサイトには年齢にフォーカスした紹介記事が載り、「30歳過ぎて新しいことに挑戦して結果を出せるなんて」と大きな反響を呼んだ。
本人は年齢への反響に驚いたという。「生きてる限り歳は取るもんやし、自分自身、全然気にしてなかったんです。“30歳限界説”とか、ネットに載った記事の反響で初めて知りました。えっ、そんなんあるの? って。わたしなんてもう、めっちゃ終わってるやんって(笑)」
漫画家としての野望などはなく、かわいい女の子が描ければそれだけで満足だ。「デジタルの恩恵を受けて描き続けてきましたけど、これから先も描き続けられたらいいな」。そう思いながらタブレットのペンを取る。
初めてのPCとペンタブレットに七転八倒
かわいい女の子の絵を描くのが、小さいころから好きだった。
兵庫県出身。書店は自宅から遠く、家に漫画はなかったが、親戚の家で少女漫画を読ませてもらっては、帰って思い出して描いていた。高校では美術部と漫画研究部に所属。当時スクリーントーンなど漫画の画材は高価で、同人誌の印刷費も高かったため、自分で漫画を描いたり同人誌を作ることはかった。大阪の大学に進学し、卒業後は塾講師や派遣社員として働き、絵とは無縁の20代を過ごし、28歳で結婚した。
再び描き始めたきっかけは、彼女の絵の才能を信じた夫の強いすすめだった。メモや手紙の端に描いた簡単な絵が、彼の目にとまった。「専業主婦で毎日ゴロゴロしてるぐらいなら、お絵かきぐらいしなさいよ」——30歳のころ、夫から「ものすごくお尻をたたかれた」と笑う。
最初は100均の落書き帳に鉛筆やシャープペンシルで描いていた。夫にPCを与えられ、デジタルの作画にも挑戦。当時としてはロースペックなNECの「PC-9821 Ra20」に、Photoshopと中古のペンタブレットだった。
PCを触ったのは初めて。Photoshopは訳が分からず、画面を見ながら手元で描くペンタブレットにも慣れず、マシンはすぐにフリーズした。スキャナで線画を取り込み、PCで彩色することにも挑戦したが、塗りたいイメージを再現できずに挫折した。
「こんなにお絵かきしてはる方が……」 お絵かき掲示板に出会う
「こんなにお絵かきしてはる方がいらっしゃるんや」——ある時、夫から教えてもらった「お絵かき掲示板」に夢中になった。
絵とテキストで交流する掲示板で、簡易なペイントツールを使い、Webブラウザから直接絵を描くことができた。さまざまなジャンルの描き手が自ら掲示板を公開したり、人の掲示板に絵を描いていた。るなツーさんは、公開された絵を見るだけの“ROM専”。自分の絵を公開するのは恥ずかしかった。
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